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ニューズレター
2023.Aug vol.105
不動産業界:2023.8.vol.105掲載
私は、自己の所有するマンションを賃貸しています。この度、賃借人から、「何者かが玄関前にいたずらをしているため、玄関前に設置された防犯カメラの映像を確認させてほしい」という申し出がありました。そのため、私の方で、防犯カメラの映像を確認しましたが、なんと防犯カメラは作動しておらず、映像も記録されていませんでした。賃借人は、防犯カメラが作動していなかったことを理由に、共益費の返還を請求しています。
なお、この防犯カメラは、賃借人が入居して数か月経った頃に、防犯設備を強化しようと思い、入居者の許可のもと、試験的に設置したものです。
これによる賃料や共益費の増額はありません。私としても、防犯カメラが作動していなかったことは悪かったと思いますが、共益費の返還にまで応じる必要があるのでしょうか。
本件の事情のもとでは、賃貸人に使用収益させる義務の違反はないと判断される可能性がありますので、賃貸人が、賃借人に対して、既に支払われた共益費の一部又は全部を返還しなければならないと判断される可能性は低いでしょう。
賃貸人は、賃借人に対して、建物を適切に維持管理する義務を負っています(民法601条)。賃貸人がこの義務に違反して賃借人に損害を生じさせた場合には、賃貸人は、賃借人に対して損害賠償責任を負う可能性があります(民法415条 1 項)。
そして、上記義務の一内容として、賃貸人に、防犯カメラを設置し、当該防犯カメラが正常に稼働するように維持管理する義務があるか否かは、賃貸人と賃借人の賃貸借契約の内容によるものと考えられます。
本件では、賃貸借契約を締結した時点では、防犯カメラは設置されていなかったこと、防犯カメラを設置したのは賃貸人が物件の防犯設備を強化しようと考えたことが理由であること等の事情によれば、賃貸借契約を締結した時点で、賃貸人に防犯カメラを設置する義務や設置した防犯カメラが正常に稼働するように維持管理する義務があったとはいえないと判断される可能性が十分にあります。
また、防犯カメラの設置により賃料や共益費の増額がなされたといった事情はないこと、防犯カメラは試験的に設置したものであること等の事情からすれば、防犯カメラを設置したことによって、当該防犯カメラが正常に稼働するように維持管理すべき義務が生じたとも評価しがたいものと考えられます。
したがって、本件の賃貸借契約において、賃貸人は、防犯カメラを設置し、当該防犯カメラが正常に稼働するように維持管理する義務があると評価される可能性は低いものと考えられます。
本件とは異なり、賃貸借契約書類に設備として「防犯カメラ」の記載があったり、「防犯カメラ設置物件」などと広告していたりする場合は、賃貸人は、物件に防犯カメラを設置し、当該防犯カメラが正常に稼働するように維持管理する義務があると判断される可能性があります。
そのため、この場合には、防犯カメラが正常に稼働していなかったことにより、賃借人に損害が生じたときには、賃貸人は、当該損害を賠償する責任を負うと判断される可能性があります。
このように、設置した防犯カメラに不具合が生じたケースでは、事案によっては賃貸人が責任を負う事態も考えられます。したがって、このような紛争を避けるために、防犯カメラのメンテナンス等については定期的に行うことが重要です。
今回は、防犯カメラの不具合について取り上げましたが、賃貸物件に設置している設備の不具合により、賃借人に損害が生じた場合には、同様の問題が生じ得ます。賃貸人としては、設置している設備が適切に機能しているかについてチェックし、適切な対応を行うことが重要です。