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ニューズレター


2023.Oct vol.107

雨漏りを巡るトラブル


不動産業界:2023.10.vol.107掲載

1年前の台風で賃貸物件から雨漏りが発生したと、賃借人から連絡がありました。その際に、雨漏りの発生原因を調査しましたが、明確な原因が判明せず、点検口に接する壁が防水施工されていなかったため、防水塗装工事を完了し、雨漏りが発生しないことを確認しました。

しかし、今年の台風の影響により、再度賃貸物件から雨漏りが発生しましたが、賃借人から雨漏りの連絡がなかったため、雨漏りの発生を把握することができず、対応することができませんでした。

そして、この度、賃借人から雨漏りによりテレビが故障したとして、損害賠償を請求されました。

雨漏りの発生原因が不明であり、賃借人が雨漏りを報告しなかった場合にも、賃貸人が損害賠償責任を負うのでしょうか。


過去に雨漏りが発生していた場合、雨漏りの発生原因が不明であり、また賃借人の報告がなくとも、雨漏りの発生について賃貸人が確認をしなかった場合には、修繕義務に違反し、損害賠償責任を負う可能性があります。

さらに詳しく

1.過去に雨漏りが発生した際に、修繕工事を実施したにもかかわらず、再度雨漏りが発生したことについて、賃借人から雨漏り発生の報告がなく、雨漏りの発生原因が不明である場合であっても、賃貸人が賃貸借契約上の修繕義務(民606条1項)に違反するのでしょうか。

2.民法上、賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う(民法606条1項)ため、義務違反によって損害が発生したと認められる場合には、賃貸人が損害賠償責任を負うことになります。

もっとも、賃借人は、賃借物が修繕を要するときは、遅滞なくその旨を賃貸人に通知しなければならない(民615条)と定められていることから、賃借人から再度雨漏りが発生した報告がない場合にまで、修繕義務に違反することになるのかが問題になります。

この点、雨漏りの修繕工事を行った後に、再度雨漏りが発生したにもかかわらず賃借人が報告しなかった事案において、「工事の後も,本件貸室の状況について何ら確認をしていないところ,原告は,被告らから何も言われていない以上,問題はないと考えた旨主張するが,天井の壁紙に水がたまる程度にまで雨漏りが発生したのであるから,雨漏りが継続していないかどうかを確認する必要性は高く,…対応として十分とは言い難い。」と示した事案(東京地判平成28年8月9日)があります。

この裁判例の考え方から、過去に雨漏りが発生した場合、賃貸人は、賃借人から再度雨漏りの発生について報告がなくとも、雨漏りの発生状況を賃借人に確認する必要があると捉えているものとうかがわれます(賃貸人が負う使用収益させる義務からも、賃貸目的物が契約目的に従って使用できているか確認する必要があるという考え方に導かれ得ると思料します。)。

ここから、本件においても、過去に台風により雨漏りが発生したことを把握していたのであれば、今回の台風発生時に雨漏りの発生状況について賃借人に対して確認していない場合、修繕義務を尽くしていなかったと判断される可能性が高いと考えられます。

3.では、雨漏りの発生原因が不明であることを理由に、修繕義務が免責されることにはならないのでしょうか。

この点に関しても、雨漏りの発生原因が不明であることについては「雨漏りの発生について,賃貸人である被告は,本件建物の修補義務に違反しているというべきであり,その原因がわからないことは,賃貸人の修補義務を免責する根拠になるとはいえない。」と判断した事案(東京地判平成25年3月25日)があり、原因不明であることから直ちに修繕義務が免責されるものではないと裁判実務上判断される傾向にあります。

そのため、本件において、過去に雨漏りの発生原因を調査したにもかかわらず、発生原因が不明であったとしても、修繕義務が免責されない可能性が高いと考えられます。

以上から、本件において、貴社が賃貸借契約上の修繕義務に違反したとして、債務不履行に基づく損害賠償責任を負い、雨漏りによって故障したテレビの修理費等の賠償を行う必要があるものと考えられます。

本ニューズレターは、具体的な案件についての法的助言を行うものではなく、一般的な情報提供を目的とするものです。

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