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ニューズレター
2023.Nov vol.108
不動産業界:2023.11.vol.108掲載
私は、居住用アパートの賃貸経営をしています。とある賃借人が常習的に賃料を滞納しているのですが、毎回滞納が3ヶ月分たまらないように、ギリギリを狙って入金してきます。
賃貸借契約を解除するためには、滞納が3ヶ月分に達している必要があるという話は聞いたことがありますが、これに達していないと解除できないものなのでしょうか。
契約違反があるにもかかわらず、このような賃借人との契約をいつまでも解除できないというのは納得できません。
裁判実務上、賃貸人が賃借人の賃料不払いを理由として賃貸借契約を解除するためには、3ヶ月分以上の賃料の滞納が必要とされる傾向にあります。
もっとも、この「3ヶ月分」というのは絶対的な基準というわけではなく、個別具体的な事情によってはそれ未満の滞納であっても、賃貸借契約の解除が認められる場合があります。あくまでも重要なのは、賃貸人と賃借人との間の「信頼関係」が破壊されたといえるか否かです。以下詳しく見ていきましょう。
賃借人が賃貸借契約(以下「契約」)に違反したからといって、賃貸人は直ちに契約を解除できるわけではありません。賃借人にとって借りている住居等は生活の基盤であり、そこを追われることは大きな打撃となります。そこで、なるべく賃借人を保護しようという発想が実務上定着しているのです。
この考え方は「信頼関係破壊の法理」と呼ばれており、最高裁でも採用されている重要な考え方になります(最高裁昭和39年7月28日判決参照)。
これによると、賃借人側に契約違反があるのみならず、それに加えて契約当事者間の信頼関係が破壊されているといえることが、契約の解除には必要となります。
裁判実務上、賃料不払いの場合には、「3ヶ月分」の賃料滞納があれば、信頼関係が破壊されたと判断される傾向にあります。なぜ3ヶ月なのかということについて、明確な理由があるというわけではないように思われます。強いて言えば、何らかのアクシデントによる1~2回程度の滞納であれば、原則として信頼関係の破壊には至っておらず、大目に見てあげようという発想があるのかもしれません。
逆にいえば、3ヶ月未満の滞納であっても、信頼関係が破壊されていると認められた場合には、契約の解除が認められます。
本件と類似した事案の裁判例においても「賃借人の基本的な義務である賃料等の支払について2か月程度の遅滞が恒常的に生じていたのであれば、それは、解除原因となり得る債務不履行に当たることは明らかであり、その態様は、原告・被告間の信頼関係を破壊するものといわざるを得ない」と判示し、3ヶ月未満の滞納であっても賃貸借契約の解除を認めたものがあります(東京地裁平成19年8月31日判決参照)。
契約書には、2ヶ月分の賃料滞納や、中には1回でも滞納したら、契約の解除事由となると定めているものもあります。このように3ヶ月未満の滞納を解除事由として定めていたからといって「契約違反により即解除」ということにはなりませんが、3ヶ月分未満の滞納を解除事由として定めておく意味はあるように思われます。契約解除を主張したい賃貸人にとっては信頼関係破壊の根拠となる事実は多いに越したことはありません。どれほどの意味があるのかということはさておき、賃借人の契約違反を主張するため、2ヶ月程度の滞納を解除事由として定めておくのが効果的かもしれません。
本件のように、なかなか滞納が3ヶ月分に達しない場合であっても、状況次第で賃料不払いを理由とする契約解除が認められる場合があります。もっとも、3ヶ月分の滞納がある事案に比べて、法的措置に踏み切るリスクがあるのもまた事実です。
このように、ある意味「ずる賢い」賃借人にお困りの方は、弁護士等の専門家にご相談することをご検討ください。