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ニューズレター
2023.Dec vol.109
不動産業界:2023.12.vol.109掲載
先日、父が亡くなりました。父は、地方の土地を持っていたため、私がその土地を単独で相続することになりました。しかし、相続した土地は、私の住んでいる場所からも遠いですし、特に利用する予定もありません。そのため、私としては、手放したいと思っているのですが、立地からして買い手が見つかる見込みも薄いです。どうにかして手放す方法はないでしょうか。
相続土地国庫帰属法に基づき、国に対し、相続した土地の所有権を国庫へ帰属させる旨の申請をすることが考えられます。①通常の管理又は処分をするにあたり過分の費用又は労力を要する土地でない場合(土地の要件)、②一定の負担金を納付することにより、国庫への帰属が認められる可能性があります。以下、詳しくみていきましょう。
近年、相続を契機として、土地を望まずに取得した所有者の負担感が増加しており、これにより、土地の管理不全を招いていることが問題とされていました。土地の問題に関する国民の意識調査(出典:平成30年度版土地白書)によると、土地所有に対する負担感について、負担を感じたことがある又は感じると思うと回答した者の割合は約42%にも及んでいます。
このような背景から、令和3年4月、「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(相続土地国庫帰属法。以下「法」といいます。)が制定され、令和5年4月27日、同法が施行されました。これにより、相続又は遺贈により、相続人が取得した土地について、国庫に帰属させることが可能となりました。
国庫への帰属を申請できる者としては、①相続等により土地の単独所有者となった者(法2条1項)、②相続等により土地の共有者となった者(法2条2項前段)、③相続等により土地の共有者となった者がいる土地の他の共有者(法2条2項後段)が挙げられています。(なお、②及び③については、共有者全員が共同で申請をする必要があります。)
相続した土地の国庫帰属を無制限に認めた場合、土地の管理を疎かにする等のモラルハザードが発生するおそれがあります。そのため、法は、国庫帰属を認める前提として、土地について一定の要件を設けることで、モラルハザードの防止を図っています。
具体的には、建物の存する土地、土壌汚染がある土地、危険な崖がある土地、森林として利用されているが適切な造林・間伐・保育が実施されていない土地等は、「通常の管理又は処分をするにあたり過分の費用又は労力を要する土地」に該当するものとして、国庫への帰属が認められません(法2条3項、法5条1項)。
相続した土地を国庫に帰属させた場合には、その後の管理コストは国へ転嫁されることになります。しかし、すべての管理コストを国が負担することは妥当でないという価値判断から、法は、申請者に対し、10年分の土地管理費相当額の負担金の納付を義務付けています。
具体的には、宅地、田、畑のうち市街化区域又は用途地域が指定されていない地域や、雑種地、原野などについては、負担金は20万円の固定額で設定されています。他方で、宅地、田、畑のうち市街化区域又は用途地域が指定されている土地については面積に応じて算定されることになります(法施行令5条)。
本件の相談者のように、相続によって望まない土地を取得してしまった場合、その土地につき、適切に使用収益ができるのであれば問題はないですが、そうでない場合には、管理コストばかりかかってしまい、負担となってしまうといった事態に陥ってしまいます。
そのような場合には、一度、相続土地国庫帰属制度の利用を考えてみてはいかがでしょうか。