ニューズレター


2015.Sep Vol.10

隣地から越境してきた枝の伐採


不動産業界:2015.9.vol.10掲載

毎日よく晴れるわねえ。天気がいいのはうれしいんだけど、草木は伸び放題で毎日お庭のお手入れが大変よ。
なのに、うちのお隣さんたらぜんぜん庭木のお手入れをしないもんだから、木の枝がうちの庭を超えて、家のほうまで伸びてきてるのよ。お隣さんのよしみだし、うちの庭の上空にまで延びてきてる枝は私がきれいに切り取ってあげようと思ってるんだけど、うちの敷地に入ってるんだから勝手に切っちゃってもいいわよねえ?あ、もちろん、お金なんて取る気はないわよ?


隣地所有者の庭木の枝を、隣地所有者の許可なく適法に伐採するためには、枝の切除を求める訴訟を提起したうえで勝訴する必要があり、そのような手続を経ることなく伐採すれば、不法行為責任を追及される可能性があります。

さらに詳しく

1.隣地から越境してきた枝の伐採に関する法規定

今回のように、隣地に幹がある植栽(竹木)の枝のみが土地の境界を越境している場合、民法上、越境されている側の土地の所有者あるいは地上権者等の権利者(以下、「権利者」といいます。)は、上記植栽の所有者に対して、その枝を「切除させる」ことができるとされています。

ここでポイントとなるのが、越境されている土地の権利者は、越境している植栽の枝を自らで「切除する」ことができるわけではなく、あくまで植栽の所有者自身に切除するよう請求できるにとどまるということです。これに反して、もし越境されている側の土地の権利者自らが切除してしまうと、他人の所有物である植栽を故意に損壊した等として、不法行為による損害賠償を請求される等の可能性が生じてしまいます。

そのため、もし植栽の所有者が、越境されている土地の権利者からの剪定要求に任意に応じない場合、強制的に枝の切除を行うためには、上記民法の規定に基づき、越境している枝の切除を求める訴訟を提起して勝訴したうえで、当該勝訴判決に基づいて、判決内容を強制的に実現するための手続(強制執行)を経るしか方法がないことになります。

しかも、裁判例からすると、このような訴訟を提起する場合、単に枝が境界を越えているという事実のみでは請求は認められず、少なくとも当該枝によって自らの土地や建物等に損害が発生する恐れが生じていることが必要になるものと考えられます(新潟地裁昭和39年12月22日参照)。このような状況を裁判所に理解させるためには、越境している枝葉によって被害が生じている状況、あるいは生じそうな状況を写真等に記録して提出すること等が必要になるでしょう。

このような手続を経て実現できる枝の切除ですが、実際に実現しようと考える場合には、訴訟提起の後判決を獲得し、判決に基づき強制執行を申立て、執行を完了するという順に手続を経る必要があり、切除までには相当程度時間がかかると考えられます。また、手続を行う手間等の労力のほか、手続を弁護士等の専門家に依頼すれば、専門家に支払うべき費用が発生することになります。なお、訴訟費用や弁護士費用のうちの相当額、あるいは強制的な切除に要する費用(強制執行費用)は、相手方に負担させることができると考えられますが、相手方に資力がなければ、結局は自らで負担しなければならないということになりかねません。

2.隣地から越境してきた根の伐採についての法規定について

一方、隣地から越境してきた竹木の根については、民法上、越境されている土地の権利者は、自らで「切り取ることができる」とされています。

そのため、根の越境に対しては、上記枝の場合のような裁判等の手続を経ることなく、越境されている土地の権利者自らで適宜伐採をすることができると考えられます。

もっとも、根の場合であっても、切除できるのはあくまで越境している範囲に限られ、隣地敷地内にある根についてまで切除すれば、それは隣地の竹木所有者の権利を侵害する行為になると考えられますので、ご留意ください。

本ニューズレターは、具体的な案件についての法的助言を行うものではなく、一般的な情報提供を目的とするものです。

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