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ニューズレター
2024.Mar vol.112
不動産業界:2024.3.vol.112掲載
私は建物を賃貸しているオーナーです。この度の入居希望者がかなりの高齢で、契約に関する説明をしても受け答えに不安があります。私としては、賃借人が高齢者であることは構わないのですが、判断能力の低下した高齢者と契約した場合、そのような契約の有効性について後ほどトラブルになるのではないかと心配です。
判断能力の低下した入居希望者への対応について、契約締結時に気を付けるべき点としてはどのようなものがあるのでしょうか。
入居希望者の判断能力に問題がある場合、入居希望者が成年被後見人等にあたる可能性があり、その場合、入居希望者と賃貸借契約を締結しても、後日この契約が取り消されてしまうリスクがあります。
そのため、入居希望者の側で法務局にて取得できる「登記されていないことの証明書」を提出するよう求め、上記のような事情がないことを確認することが重要です。
昨今の高齢化社会に伴い、賃貸物件の入居希望者が高齢者となるケースが増えてきています。総務省統計局が公表している「平成30年住宅・土地統計調査」によると、借家に居住する65歳以上の単身主世帯数は毎年増加しており、平成30年の時点で、借家に住む世帯の10世帯に1世帯以上は65歳以上の単身世帯となっています。
そのため、高齢者が入居を希望した際の対応を知っておくことは、今後ますます重要になってくるものと考えられます。とりわけ、判断能力については契約の大前提となるところですので、特に重要となります。
入居希望者が高齢者である場合などには、入居希望者の判断能力が十分か否かについて慎重に検討する必要があります。入居希望者の判断能力に問題がある場合、入居希望者が成年被後見人、被保佐人、被補助人である可能性があり、その場合、入居希望者と賃貸借契約を締結しても、後日、この契約が取り消されてしまうリスクがあります。
後見等開始の審判がされたときは、家庭裁判所の嘱託により、後見人等の権限などが登記されます。そのため、この登記を確認することで、入居希望者が成年被後見人等に該当するかを確認できます。もっとも、プライバシーへの配慮の観点から、この登記を確認できるのは、本人、本人の四親等内の親族、またはこれらの者から委任を受けた者に限定されています。そのため、通常であれば、賃貸人側がこの登記を直接確認することはできません。そこで、入居希望者の判断能力に問題があると考えられる場合には、入居希望者の側で法務局に対して登記の確認をしてもらい、「登記されていないことの証明書」を提出するよう求めることが有効です。
「登記されていないことの証明書」の提出を受け、成年被後見人等の登記がされていないことが明らかとなれば良いですが、一方で登記がされていた場合には、どのように対応すれば良いでしょうか。
まず、入居希望者に対して「成年被後見人の登記」が行われている場合、入居希望者と賃貸借契約を締結しても、成年後見人に取り消される可能性があるため、成年後見人を代理人として賃貸借契約を締結する必要があります。
次に「被保佐人の登記」が行われている場合、入居希望者と賃貸借契約を締結することはできますが、もし賃貸借契約の契約期間が3年を超える場合には、保佐人の同意を得ることが必要となります。また、賃貸借契約の契約期間が3年以内であっても、家庭裁判所が審判において別途同意を要する事項を定めている場合には、例外的に保佐人の同意が必要となる場合がありますので、審判書の提出も求めておくべきです。
また「被補助人の登記」が行われている場合も、入居希望者と賃貸借契約を締結することはできますが、家庭裁判所の審判において補助人の同意を要する事項として賃貸借契約の締結が含まれている場合には、例外的に補助人の同意が必要となりますので、同じく審判書の提出を求めるべきでしょう。
判断能力が不十分な入居希望者においては、毎月の賃料の支払いや近隣の入居者との関係、建物を汚損しないか等の考慮も必要なケースがあるため、緊急連絡先や連帯保証人の確保も重要となります。
また、本稿では触れませんでしたが、公正証書で契約することで利用可能な「任意後見制度」というものもあり、判断能力の低下した入居希望者と契約する際の注意点は多岐にわたります。対応にお困りの場合には、専門家である弁護士にご相談ください。