ニューズレター
2016.Apr Vol.17
不動産業界:2016.4.vol.17掲載
両親から相続したアパートを自分で管理しながら賃貸に出しているんだけど、築50年も経ってしまっていて、あちこちにガタがきているのよ。
安い賃料でも借りたい人がいるから貸しているけど、このまま貸し続けてもいいものなのかしら。
たとえば、アパートの外壁タイルが落下して、通行人や入居者にぶつかってケガをさせたような場合、私が治療費等を支払うことになるのかしら。
民法上、建物の設置・保存の瑕疵によって他人に損害が発生したときは、その建物の占有者が損害賠償責任を負います。
建物の占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者が損害賠償責任を負います。
御質問のケースでは、大家さん御自身が占有者であり、所有者といえますので、大家さんが治療費等について損害賠償責任を負うと考えられます。
あら、そうなのね。まあ古い建物を貸しているのだから仕方ないわね。
とはいっても、東日本大震災のような大地震がきて、建物が倒壊したという場合までは責任を負わないわよね?
必ずしも責任を免れるわけではありません。
地震が不可抗力のものとはいえ、建物が通常有すべき安全性を欠いていたような場合には、家主が損害賠償責任を負うこともあり得ます。
民法上、土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害が生じたときは、その工作物の占有者が、被害者に対してその損害を賠償する責任を負います。占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償する責任を負います(民法717条1項)。そのため、建物を自身で管理している家主さんは、建物の設置や保存に瑕疵があることによって、他人に損害を発生させたときに損害賠償責任を負う可能性が高いので注意が必要です。
では、想定外の大地震が起こって、建物が倒壊し、入居者が死傷したというような事態においてまで、建物所有者は責任を負うでしょうか。
この点については、神戸地判平成11年9月20日の裁判例が参考になります。当該裁判例は、昭和39年に建築された神戸市内の賃貸用アパートが、阪神大震災によって1階部分が完全に倒壊し、入居者のうち4名が死亡し、複数名が傷害を負ったという事案において、遺族らが総額3億円余の損害賠償を求めて提訴したものです。
裁判所は、当該建物について、「設計上壁厚や壁量が不十分」であり、「実際の施工においてもコンクリートブロック壁に配筋された鉄筋の量が十分でない上、その鉄筋が柱や梁の鉄骨に溶接等されていないため壁と柱とが十分に緊結されていない等」の不備があり、「建築当時を基準に考えても、建物が通常有すべき安全性を有していなかった」旨を認定しました。そして、「賃借人らの死傷は、地震という不可抗力によるものとはいえず、当該建物自体の設置の瑕疵と想定外の揺れの本件地震とが、競合してその原因となった」ことを認めました。
そのうえで、裁判所は、建物設置の瑕疵と地震の想定外の自然力とが競合して本件損害発生の原因となっている場合には、損害額の算定において自然力の損害発生への寄与度を割合的に斟酌すべきとし、当該事案においては、地震の損害発生への寄与度を5割と認定しました。結局、裁判所は、建物の所有者に対して、自然力による寄与度の5割を控除した金額である約1億3000万円の支払いを命じています。
御紹介した裁判例が示すように、想定外の大地震という不可抗力があったとしても、建物が通常有すべき安全性を有していなかったために建物が倒壊したと認められる場合には、家主が損害賠償責任を負う可能性は残ります。 建物が老朽化しており、建物が通常有すべき安全性を欠いていると判断される場合は、建替え等を検討することも考えられるところです。