ニューズレター
2017.Sep Vol.34
不動産業界:2017.9.vol.34掲載
私のマンションの906号室のベランダに、鳥が巣を作っていたみたいなんです。幸いというかなんというか、その部屋は長らく空き部屋になっていたので、新しい借主さんの入居時に、お部屋の清掃と併せて取り除けばいいかな~なんて思ってたら、お隣の905号室の入居者さんが怒鳴り込んできて、「大家さんが鳥の巣を放置したせいで医者にいかざるを得なくなった、通院費を賠償してもらう、支払ってもらえないなら訴訟も辞さないからな!」ですって!
どうやら、鳥の巣から発生したダニに刺されて手足がかなりただれてしまったみたいなんだけど、自然現象で生じた被害なんだから、大家の私が責任を負う必要はないわよね?
居住用として賃貸したマンションにおいて、野鳥が作った巣から発生したダニが原因で入居者に被害が生じた場合、賃貸人としては、当該被害を填補する責任を負う可能性があります。
あまり知られてはいませんが、野鳥の巣は、実は、ダニやノミ等の害虫の温床となっています。野鳥の血液を好むそれらの害虫が親鳥とともに巣に発生し、野鳥の滞在中に繁殖していくのですが、雛鳥が巣立って鳥の巣が空になると、寄生先を求めて巣床となった施設内に侵入するという事案が実際に起こっているようです。
一方、居住用物件は、入居者が日常生活を送ることを前提に入居することが前提となるため、賃貸住宅の提供者としては、居住に適した状態で賃貸し、あるいは使用等(「賃貸等」といいます。)させる義務を負います。そのような建物内において、人身に被害を生じさせる害虫が発生する状況は居住に適した状況とは言えず、これに対応しないことが、賃貸人の義務不履行と評価される可能性があります。この場合、害虫により身体に被害が生じれば、その療養のための診察、薬剤の費用や通院費、あるいは苦痛に伴う慰謝料等が、また、害虫によって居住ができない状況にまで至ったということになれば転居費用等が、支払うべき賠償金に該当する可能性が生じます。
では、害虫が繁殖する前に巣を除去してしまえばいいかというと、これについては別途の法規制がかかることに留意が必要です。
我が国においては、法令により、鳥類及びその卵に対して、捕獲、採取又は損傷する行為が禁止されており、環境大臣または都道府県知事の許可を受けたうえでなければ適法に行うことができないとされています(違反に対しては、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金)。そのため、除去対象の巣の中に、鳥が生息し、あるいは卵が置かれている状況においては、上記許可を受けた業者以外は、適法に巣の除去を行うことはできないことになります。
これに対し、野鳥が巣立って空になった巣を除去することに対しては、上記規制は及びません。この場合には、害虫繁殖の有無の確認と、繁殖していた場合にしっかりと駆除できるような措置も併せて取る必要があると考えられます。
鳥の巣だからと言って放置することは危険です。巣が作られたら直ちに発見できるように定期的に目視確認等するとともに、鳥の巣が作られたことを発見したら速やかに除去できるよう心がけましょう。雛鳥や卵が残存する巣の除去は、許可を受けた業者以外行えないことにも気を付けてくださいね。