ニューズレター
2018.Jun vol.43
不動産業界:2018.6.vol.43掲載
私は30年前からアパートを所有し、賃貸しているのですが、老朽化のため防火性能の優れたマンションへの建替えを検討しています。アパートの敷地の全てが私の所有だと思っていたのですが、最近、敷地の一部は市の所有地であることが判明しました。でも、30年も経っているし、もう時効だから、全部私の所有地として建替えをしても問題ないですよね?
私人が国や市の土地を時効取得すること自体は不可能ではありません。しかし、判例上、私有地を時効取得することよりもかなり厳しく判断されており、アパートを建てた時点で、既に公有地としての機能を失っていたとまで認められなければなりません。従って、安易に建替えをしてはいけないと考えます。
20年間、自己所有の意思で他人の物を平穏かつ公然に占有した者は、その物の所有権を取得します(民法162条1項)。
そして、当該他人の物を、他人の所有であることを知らずに、20年間、所有の意思をもって占有した場合には、当該占有の開始時に遡って、占有者は所有権を取得します。
従って、仮に、本件でも、取得時効が認められる場合には、占有の開始時(アパート建築の開始時など)から、質問者さんは市の土地であった部分についても所有権を取得することになります。
取得時効における「他人の物」とは、国や市町村など公共団体が所有する物も含まれます。もっとも、公有地は私有地とは異なり、多くの市民の利益になるよう用いられることが求められる性質のものであるため、一人の私人の所有に帰属させることは適切ではない場合があると考えられます。そこで、判例上、「長年にわたり当該埋立地が事実上公の目的に使用されることもなく放置され、公共用財産としての形態、機能を完全に喪失し、その上に他人の平穏かつ公然の占有が継続したが、そのため実際上公の目的が害されるようなこともなく、これを公共用財産として維持すべき理由がなくなった場合には…黙示的に公用が廃止された」として、公有地が取得時効の対象になると考えられています(最判平成17年12月16日参照)。そして、ここでいう「黙示の公用の廃止」は、占有開始時点で認められる必要があります。
これを本件についてみますと、アパートの敷地のうち市の所有する部分が、当該アパートの建築当時、すでに公有地として利用されずに長期間放置され、また、本来の目的(公道である場合には市民の通行など)に供することができない状態であって、私人のアパートの敷地として利用させても支障がなく、公有地として維持する必要がない場合には、市の所有する部分について取得時効が成立する可能性があります。
取得時効が成立しない場合には、市から有償で払下げを受けるか、賃貸借契約を締結した上で、建替えを行う必要があります。そうでないと、いくら長年占有していたからといっても、法的には市の所有権を侵害しているため、市の所有地上の部分について、建物を収去させられる可能性が否定できないからです。
払下げの場合には、当該公有地を管理する行政庁に対して払下げの申立てをし、公有地の用途廃止や払下価格の決定などの手続きを経て、当該公有地の所有権を取得することになります。
なお、取得時効によって無償の払下げを受けることも考えられますが、市側が公有地の取得時効を任意に認めてくれることは考えにくいため、訴訟によって取得時効の成立を主張せざるをえない可能性が高いと考えます。