ニューズレター
2018.Jul vol.44
不動産業界:2018.7.vol.44掲載
私の保有するアパートではペットを飼うことを禁止しており、賃貸借契約書にもその旨をしっかり明記しているのですが、最近入居者のAさんがどうも犬をこっそり飼っているようなんです。部屋の引渡しの際もペットは禁止と念を押していましたし、契約違反ということで、すぐにでも出て行ってもらおうと思うのですが、かまいませんよね?
ペットの飼育を特約であらかじめ禁止していても、ペットの飼育をしたというだけで直ちに賃貸借契約を解除できるわけではありません。ただし、Aさんに対しペットを飼わないように申し入れをした上で、それでもAさんがペットを飼い続けるような場合には解除が認められうると考えられます。
本件のような建物賃貸借契約において賃貸人から契約を解除する場合には、債務不履行のみでは解除は認められず、当事者間の信頼関係の破壊が認められてはじめて解除が認められます(最判昭和39年7月28日等)。
そのため、本件建物賃貸借契約でペット飼育禁止の特約があり、Aさんがそれに反して犬を飼ったとしても、ペットが部屋内を傷つけた場合などに債務不履行に基づき損害賠償責任を負いこそすれ、その一事をもって直ちに解除が認められるわけではありません。
Aさんの犬の飼育という債務不履行だけでは直ちに解除まで認められないことは確かですが、オーナー様とAさんとの信頼関係が破壊されれば賃貸借契約を解除することができます。
信頼関係の破壊については、無断転貸(民法612条1項、2項)や賃料の継続的な不払いなど、建物賃貸借契約の中核をなす債務の不履行の場合には認められやすい傾向にありますが、ペット飼育禁止特約という付随的な債務の不履行の場合には認められにくくなっています。
しかし、ペット飼育特約違反のみで信頼関係破壊を認めた裁判例も存在します。まず一つが、契約時にペット飼育禁止を伝えられており賃貸借契約書上にもペット飼育禁止が明記されていたにもかかわらず、賃借人が無断でフェネックギツネの飼育を続けていた事例(東京地判平成22年2月24日)です。この事例では契約締結1か月後に賃貸人にフェネックギツネの飼育が判明し、賃貸人及び管理会社が飼育の停止を求めたものの賃借人はそのまま飼育を継続したため、判明からさらに1か月後に賃貸人が賃貸借契約の解除の意思表示を行い、解除が認められています。
もう一つの事例は、賃貸借契約書上に犬猫等動物の飼育禁止と明記されていたにもかかわらず、賃借人が猫の飼育を始めたものです(東京地判平成26年3月19日)。この事例では猫の飼育に気づいた賃貸人が賃借人に対し14日以内に猫の飼育を中止するよう求め、応じない場合は契約を解除する旨の内容証明郵便を送ったところ、賃借人が猫の飼育を中止し今後はペットの飼育を行わず、ペットの飼育を行った場合には即刻建物を明け渡す旨の念書を賃貸人に差し入れたものの、そのまま50日以上猫の飼育を続けていたケースです。この事例も賃貸人からの解除が認められています。
以上の裁判例からすれば、ペット飼育禁止特約違反の場合に信頼関係破壊が認められるには、①まず賃貸人がペットの飼育を中止するよう賃借人に警告し、②賃借人が警告から1か月以上経過しても依然としてペットを飼い続けていることの2要素を満たす必要があり、これを満たすのであれば、信頼関係が破壊されたものとして解除が認められる可能性が高いと考えられます。
本件では、Aさんに対してまず犬の飼育を中止するよう書面で求めた上で、なおAさんが1か月以上犬を飼い続けているようであれば、改めて賃貸借契約の解除の意思表示をすればよいと思われます。