ニューズレター


2018.Sep vol.46

有益費償還請求と造作買取請求について


不動産業界:2018.9.vol.46掲載

私が賃貸に出しているマンションの部屋には、四畳半の和室があるのですが、ある入居者が、「費用は自分が出すので、畳をフローリングにしたい」と言ったため、これを認めました。この度、この入居者が退去することになり、「フローリング床を買い取って欲しい」と言ってきたのですが、買い取らなければいけないのでしょうか。また、入居者の退去後は、もとの畳敷きにしたいのですが、私が費用を出さなければいけないのでしょうか。


床材の変更は、有益費償還請求の問題として処理されるため、買取請求に応じる必要はありません。また、もとの畳敷きにしたい場合は、賃借人の費用で畳敷きに戻すよう請求することができます。

さらに詳しく

賃借人が、賃貸人の同意を得て、賃借している居室に工事を施して壁や床を別の材質に変えたり、もともと居室にはなかった建具(網戸やガラス戸等)や造作(空調設備等)を付加・設置することはよくあります。

本来、賃借人は、賃貸借契約が終了して退去する際、借りていた居室をもとの状態にして賃貸人に返さなければならないのが原則ですが(原状回復義務)、だからといって、工事をして変更した壁や床をまた元通りにするには、さらに費用がかかります。また、付加・設置した造作類を常に賃借人に収去させるというのも、賃借人がせっかくかけた費用が無駄になりますし、その造作が居室の価値を高めているような場合には、これを収去してはかえって居室の価値を減殺させてしまうことになりかねません。

そこで、このような改造や造作の付加・設置があった場合、それらが建物の構成部分になるか否かによって、民法及び借地借家法は、賃貸人と賃借人の利益を調整する規定を置いています。

まず、改造工事等の結果が、建物の一部として建物の構成部分となり、所有権が賃貸人に帰属することとなる場合で、当該建物の客観的価値を高める場合、民法608条2項により、賃借人は賃貸人に対し、有益費償還請求権を行使することが認められています。

他方、建物に物が付加された場合で、この物が建物からの独立性を有し、賃借人の所有に属しており、かつ、建物の使用・収益に客観的便益を付与している場合(このような物を「造作」といいます)、これについては、借地借家法33条が、賃借人から賃貸人に対して買取請求権を行使することを認めています。

本件のようなフローリングの床は、建物からの独立性がなく、建物の一部として建物の構成部分となりますから、「造作」にはあたらず、造作買取請求権の対象にはなりません。

しかし、フローリング床への変更が、本件建物の客観的価値を高めた場合には、有益費償還請求権の対象になりますから、その場合には、賃貸人は賃借人に対して有益費を支払わなければならない可能性があります。

また、本件フローリング床への変更について、有益費償還請求の対象にならなかった場合は、賃借人が費用を負担して原状に回復する義務を負いますので、賃貸人は、賃借人に対して、その負担で畳敷きに戻すよう求めることが可能です。

賃貸人と賃借人との間で特別な取り決めがある場合や、些少なものである場合を除いて、賃貸人の同意を得ない改造工事や、造作の付加・設置は、基本的に契約違反となります。

しかし、同意を得ている場合であっても、賃借人による改造工事や造作の付加・設置に関し、その費用をめぐって、退去の際にトラブルとなることが比較的多いと言えます。

この点、トラブルを避けるために、賃貸借契約を締結する時点で、契約書に、賃借人の有益費償還請求権や造作買取請求権を放棄する条項を設けたりすることが多く行われていますので、そうすることも有用でしょう。

本ニューズレターは、具体的な案件についての法的助言を行うものではなく、一般的な情報提供を目的とするものです。

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