ニューズレター


2018.Dec vol.49

ベランダでの喫煙が不法行為になる場合


不動産業界:2018.12.vol.49掲載

うちのマンションの2階のAさんのベランダでの煙草の煙が3階のBさんの部屋に入り込んでいるみたいで、BさんからAさんにベランダで煙草を吸うなって苦情を入れてるんだよ。
ベランダとはいえ借主に貸している以上、借主が自由に使えるスペースなわけだから、Bさんには我慢してもらうしかないよね?


Aさんの喫煙行為は Bさんに対する不法行為と評価される可能性があるため、貸主としては詳細に状況を確認し、適宜、Aさんに対してベランダでの喫煙を停止するよう求めていく必要があると考えられます。

さらに詳しく

1.受忍限度論

賃貸借物件における借主の賃貸部分のように、自らに正当な使用収益権限が存在する領域内においては、当該使用収益権限の範囲内で、自由に使用収益等できるのが原則です。もっとも、当該領域内の行為により他人の権利利益を侵害する影響が生じる場合、種々の事情を考慮したうえで、当該影響が、被害を受ける住人の受忍限度を超える等と評価できる場合には、不法行為と認定される可能性があります。

2.名古屋地裁平成24年12月13日判決

実際にも、マンションの下階の住人の喫煙行為が上階の住人にとっての不法行為を構成するとして、損害賠償責任が肯定された裁判例があります。

本裁判例は、上階の住人Xが、階下に居住するYに対して、Yがベランダで喫煙を継続することで流れ込んだ排煙により体調を悪化させ、精神的肉体的損害を受けたとして、150万円の損害賠償請求を行った事案です。

Yの喫煙に関しては以下のような事情が認められました。

・Xは小児喘息の病歴があったことから、煙草の排煙には特に強い恐怖感を覚える人物であったところ、平成22年4月頃よりYの煙草の排煙の流入を感じるようになり、翌5月にはストレスによる帯状疱疹を発症した。
これを受け、XからYに対して、当該経緯を記載した手紙を投函してベランダでの喫煙をやめるよう求めた。

・ 同頃、Yは平日勤務があるときで1日5本程度、休日や勤務がない日であればこれを超える量をベランダで喫煙していたが、YはXからの手紙を確認してもベランダでの喫煙を継続した。

・ 平成 23年5月頃には、Xからの要請に応じた管理組合がベランダでの喫煙をやめるよう掲示をしたり、その旨記載した回覧が流れる等した。これを受けてもベランダでの喫煙を停止しないYに対して、X の娘から電話で、ベランダでの喫煙をやめ、室内の換気扇の下での喫煙に変更するよう求めたものの、Yは少なくとも平成23年9月19日頃までベランダでの喫煙を止めなかった。

当該事案において、裁判所はまず、マンションの専有部分及びこれに接続する専用使用部分における喫煙であっても、他の居住者に著しい不利益を与えていることを知りながら、喫煙を継続し、何らこれを防止する措置を取らない場合には、喫煙行為が不法行為を構成することがありうるとの判断を示しました。

そして、Yの喫煙により Xの居室内に入る煙草の排煙量は決して少ないとは言えないとしたうえで、X から Y に対しては、自らが喘息であることと、Y のベランダでの喫煙に強いストレスを感じることを伝えたうえで、各種方法でYのベランダでの喫煙をやめるよう求めていたのに、これに配慮することなく喫煙を継続していたYの行為は、遅くとも回覧や掲示がされた平成23年5月以後はXにとっての不法行為を構成する、として、Yに対して5万円の慰謝料の支払いを命じました。

Aさんの喫煙行為が Bさんにとっての不法行為を構成する場合、Bさんとの賃貸借契約上の貸主としての義務を履行するべく、Aさんの喫煙行為を是正するための行為をとる必要が生じ得ます。

住人間のトラブルに際して、貸主としては、詳細に状況を確認したうえで、適宜必要な措置を講じていかなければならないものと考えられます。

本ニューズレターは、具体的な案件についての法的助言を行うものではなく、一般的な情報提供を目的とするものです。

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