ニューズレター


2015.Apr Vol.5

誰の自転車なんだろう?


不動産業界:2015.4.vol.5掲載

先生、お世話になっております。
実は、うちのマンションは駅に近いということや居住者も多いということもあってか、持ち主不明の放置自転車がたくさんあって、通行しにくくなっているし子供が引っ掛かって怪我したりしているんです。
マンションの管理組合でも対処に悩んでいたんですが、そんな中、ある住民の知り合いの便利屋さんが放置自転車の処分をやっていると聞いたものだから、お願いしたんですね。
駐輪区画内にない自転車は1か月後に処分しますよ、という旨の告知をマンションの掲示板に張っておけばいいと便利屋が言っていたので、その通りにやったんです。

そして、1か月後に相当数処分ができて、ようやくすっきりしたなあと思っていたら、住民でもない変な男が怒鳴り込んできたんですよ。
『俺がとめていた自転車を勝手に処分したな!! あれはカスタムしてるから50万はするぞ! すぐに払え! 払わないなら警察でもなんでも行くぞ』なんて言ってきて、ほとほと困っているんですよね。
そもそも、住民でもないのに勝手に止めて迷惑かけているんだから、こちらが払う必要はないと思っているし、警察を呼ばれても悪いのはあっちだと思うのですが……


たとえ私有地内に放置されている自転車であっても、所有者の断りなく処分してしまうことは器物損壊罪に該当し、刑罰の対象となるとともに、民事上も不法行為として損害賠償責任を負う可能性があります。

今回のように、掲示板等により告知を行っていたとしても、当該告知をもって処分に同意したとみることは難しいものと考えられますので、当該手法は適切ではありません。 正しい手続きとしては、誰の自転車かわからないものは警察に連絡することが考えられ、それでも解決しない場合には、簡易裁判所における訴訟等の法的手続きを採ることが考えられます。

さらに詳しく

放置自転車は、あたかも捨てられているかのようにも思えますが、法的には所有者が存在する動産であるところ、所有者が所有権を放棄しているといったような事情がない限りは、無許可で処分をすることは、器物損壊罪(刑法261条)に該当する行為として、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金という刑罰を処される可能性があります。
さらに、民事上は、不法行為(民法709条)として、所有者に発生した損害を賠償する責任を負うことになります。

以上のような刑罰又は責任は、所有者が無断で駐輪していたとしても結論を左右するものではありません。

そのため、たとえ住民のものではない、すなわち誰のものかわからない自転車であったとしても、所有者の同意なく処分することは前述のような刑罰又は責任を負いかねないものとなります。

そこで、まずは所有者の同意を得る手段を講じなければならないという大原則に立ったうえで、採りうる手段を検討しなければなりません。

まず、所有者が誰であるかを調査する一つの手段として、警察に相談するということが考えられます。
防犯登録番号等があれば警察において調査可能ですし、場合によっては警察が所有者に働きかけて撤去を促してくれることもあります。
また、自転車が盗難自転車であるような場合は、警察において保管する場合もあり、放置自転車が撤去されることもあり得るのです。

しかしながら、警察に相談しても、解決しない場合もあります。

この点、所有者が判明しない場合には、放置自転車を遺失物として届け出ることも考えられるため、届出を前提として警察と十分に話し合うべきであるものと考えられます。
警察がなかなか対応してくれない例もあるかもしれませんが、裁判例上、放置自転車について、所有者が所有権を放棄したか否かが明らかではないときには、遺失物法によって処置することが相当と判断した例があり、また、遺失物として差し出された物に関しては、警察署長は遺失物法に則った手続きを踏まなければならないことから、これを根拠に交渉することが考えられます。

そして、所有者がわかっているが連絡が取れないような場合には、いよいよ訴訟等を行うことでしか適法な対応は難しくなります。もっとも、訴訟といっても放置自転車の価格は低いことが多いため、多くの事例においては簡易裁判所で行うことも可能であると考えられます。

以上のように、放置自転車の処分に関しては場合に応じて適切な対応を行わなければ、思わぬ刑罰や損害賠償責任を負いかねないリスキーなものであるため、十分にご注意ください。

本ニューズレターは、具体的な案件についての法的助言を行うものではなく、一般的な情報提供を目的とするものです。

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