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ニューズレター


2021.Feb vol.75

念書で何とかならない?


不動産業界:2021.2.vol.75掲載

私は、居住用賃貸物件のオーナーをしています。近ごろ、コロナの影響なのか分かりませんが、賃料の支払いが滞り気味の賃借人がいます。いくらコロナの影響といえども、賃料は支払ってもらわないと困りますので、場合によっては賃借人に退去いただくことも検討しています。

そこで、ご質問なのですが、

①「次に1回でも支払いが遅れたら退去します。」との念書をもらっておけば、賃借人を退去させることはできるでしょうか?
②賃借人に退去いただきたい場合、裁判を行わなければならないのでしょうか?
③裁判を行う場合、弁護士さんに依頼しなければならないのでしょうか?


①念書をもらったからといって、必ずしも賃借人を退去させることができるとは限りません。賃貸借契約を解除して、賃借人に退去いただくためには、賃貸人と賃借人間の信頼関係が破壊されていると認められる必要があります。

②必ず裁判を行わなければならないわけではありません。賃借人に退去していただく方法としては、裁判手続きを利用して強制的な退去を目指す方法の他、任意の交渉により退去を目指す方法も考えられます。

③日本においては、弁護士に依頼せず、当事者本人が訴訟を行うことも認められています。しかしながら、裁判を進めるうえでは法律構成の検討や事実の取捨選択など専門的知見が必要となりますので、なるべく弁護士に相談する方が好ましいでしょう。

さらに詳しく

①賃借人からの賃料支払いが滞るようになってしまった場合、オーナー様としては、「場合によっては、退去してもらわなければならない…」とお考えになることはもっともだと思います。しかしながら、日本の裁判例上、賃借権は生活の拠点たる住居の確保という点において重要な権利と考えられており、簡単に解除できるわけではありません。
賃料の支払いをたった1度だけでも遅延しただけで生活の本拠となる建物を明け渡さなければならないというのでは賃借人に酷であるため、賃貸人と賃借人の間の信頼関係を破壊しない程度の義務違反では賃貸借契約を解除することはできないとされています。
そのため、上述のような念書を取得したとしても、たった1回の遅延で賃貸借契約を解除することができるとは限りません。一つの目安ではありますが、3か月程度の滞納があれば解除が認められる可能性は相当程度高いでしょう。

②賃借人の賃料滞納が続いたことにより、オーナー様が解除を通知したのち、賃借人が自主的に退去してくれればよいのですが、一向に退去しない場合にはどのようにすればよいのでしょうか。
「賃料を支払わないとはけしからん」ということで、玄関のカギを付け替えたり、勝手に荷物を搬出しようとする方もいらっしゃいますが、このような行為は絶対に行わないでください。このような自力救済を行うと、賃借人の占有権や所有権を侵害するものとして、かえって不法行為に基づく損害賠償責任を負う可能性があります。
適法に賃借人に退去していただく方法としては大きく分けて2通り考えられます。一つ目は、任意の交渉により退去を目指す方法です。この方法のメリットとしては、裁判などの法的手続きを利用する場合と比較して、費用を抑え、かつ短期間で退去まで漕ぎつけることができる可能性があります。
二つ目は、裁判手続きを利用して退去を目指す方法です。この方法のメリットとしては、勝訴判決を得て、強制執行の申し立てを行えば、賃借人の意思にかかわらず、強制的に物件から退去させることができます。

③世間的には、裁判をするためには必ず弁護士に依頼しなければならないのではないかという印象を持っておられる方が相当数いらっしゃるかもしれません。たしかに国によっては、裁判を行う場合に必ず弁護士を代理人として選任しなければならない建前となっている弁護士強制主義の制度を採用しているところもありますが、日本では、弁護士強制主義を採用しているわけではありませんので、本人訴訟でも裁判手続きを行うことができます。

しかしながら、裁判所に提出する訴状や答弁書、準備書面の作成については、法律構成の検討・主張する事実の取捨選択など専門的知見が必要となりますので、「そんな法的主張も可能だったのか…」「この事実は主張すべきでなかったのに…」といった事態を避ける意味でも、なるべく法律の専門家たる弁護士に相談するほうが好ましいでしょう。

本ニューズレターは、具体的な案件についての法的助言を行うものではなく、一般的な情報提供を目的とするものです。

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