ニューズレター
2021.Oct vol.83
不動産業界:2021.10.vol.83掲載
私は、アパート1棟の賃貸経営をしていますが、アパートの敷地内に、所有者が不明なバイクがあります。ナンバープレートはついているのですが、ずっと前から動かした形跡もなくタイヤもパンクしています。
①すぐにでも処分したいのですが、さすがに勝手に処分するとまずいような気もします。何か問題はありますか。
②陸運局に尋ねたのですが、所有者でない人に所有者を開示することはできないといわれました。どうしたらいいですか。他に所有者を特定する手段はありますか。
③弁護士に聞くのもどうかと思いますが、できるだけ費用をかけたくないので。何か「裏技」みたいなものがあれば教えてください。
①当該バイク(以下「自動二輪車」とします。)を勝手に処分することは自力救済にあたり、民事責任としては不法行為責任のリスクがあり、理論的には刑事責任のリスクもあります。
②盗難車両であれば、警察に盗難車両の照会をかけてもらうことで所有者が見つかる可能性があります。他には、費用はかかりますが、弁護士に依頼すれば、弁護士会照会の手続によって、当該自動二輪車の登録事項を照会することができます。
③「無主物先占」による所有権の取得という「裏技」もありますが、リスクが高いのでおすすめはできません。
①法律上、権利を侵害された者が、法的手続によらずに自ら実力で権利を回復することは、「自力救済」として禁止されております。本件においても、自ら当該自動二輪車を処分することは自力救済にあたると考えられます。万が一将来所有者が現れた場合等には、不法行為に基づく損害賠償請求を受けるおそれもありますし、刑法上の器物損壊行為・占有離脱物横領罪行為として、刑事責任を負うリスクもゼロではありません。
②当該自動二輪車が盗難車両として届け出られている可能性があるため、まずは警察に通報・相談し、盗難車両の照会をしてもらうべきと考えられます。当該自動二輪車が盗難車両や犯罪の証拠となるものである場合、警察が押収してくれる可能性があり、警察からの連絡に所有者が応じれば、所有者が引き取ってくれる可能性もあるでしょう。
警察を頼っても所有者が見つからなかった場合、費用はかかりますが、弁護士に依頼するのが最も安全でしょう。弁護士に依頼すれば、弁護士会照会の手続によって、所有者の氏名及び住所を特定し、現住所を突き止めた上で、所有者に対し引取りの催告をすることや、妨害排除請求等をして強制的に引取りを求めることが可能です。また、場合により賃料相当損害金の請求も可能となるでしょう。
③「裏技」といえるかどうかはわかりませんが、低コストで目的を実現する手段としては、「無主物を占有した者は所有権を取得する」という仕組み(「無主物先占」といいます。)を利用し、当該自動二輪車を無主物(所有者のない動産)と評価し、その所有権を取得するという方法が考えられます。
もっとも、専門家以外の方がこの手法をとることにはかなりのリスクがあります。例えば、もし所有者を名乗る者が現れ、民事上の不法行為に基づく損害賠償請求をされた場合、弁護士を依頼することになると思いますので、結局弁護士費用がかかります。器物損壊・占有離脱物横領として刑事責任が問われる可能性も無視できません。
なお、③の手法による場合は、警察から「所有者が確認できない」又は「所有者が確認できたが所在不明である」という回答を得られるか確認する、当該自動二輪車の状況を写真で保全しておく、一定期間立看板等で引取り・撤去を催告する等、無主物と評価できる資料を自ら作り上げる必要があります。・・・やはりご自身でやられるには大変な気がいたします。少なくとも、弁護士に相談はした方が良いでしょう。