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ニューズレター
2022.Nov vol.96
不動産業界:2022.11.vol.96掲載
当社が賃貸しているマンションにおいて、複数の居住者から、特定の賃借人(以下、「本件賃借人」といいます。)の騒音についてクレームが入りました。クレームによると、本件賃借人は、夕方から深夜まで、毎日のように大音量で音楽を聴いているとのことでした。事実確認のため、当社の担当者が、実際に、現地に赴いたところ、物件に隣接する駐車場からでも聞こえるほどの大音量で音楽を流していることを確認しています。また、当社の担当者が、本件賃借人に直接電話や、メール、訪問を何度も繰り返していますが、連絡が取れず、注意文を投函しても改善しません。そこで、本件賃借人に対して法的手続きによる明渡しを行いたいのですが、可能でしょうか。
本件賃借人を強制的に退去させるためには、貴社と本件賃借人との間の賃貸借契約(以下、「本件賃貸借契約」といいます。)を解除することが考えられます。ご相談内容によると、本件賃借人は、夕方から深夜まで、隣接する駐車場まで聞こえるほどの大音量で毎日のように音楽を流しており、貴社からの再三の注意にもかかわらず改善がみられないとのことですので、貴社の解除が認められる可能性があります。
賃貸人において、債務不履行を理由に賃貸借契約を解除するためには、①賃借人に債務不履行があることが必要になります(民法415条1項)。そして、②賃貸借契約は、賃貸人と賃借人の信頼関係に基づく継続的な契約であるため、債務不履行を理由として解除をするためには、両者の信頼関係が破壊されるに至ったと認められる事情が必要であるとされています。
一般に、賃貸借契約においては、賃借人は、他の居住者の生活妨害となる行為をしないことが当然の前提として黙示的に合意されており(大阪地判平成元年4月13日)、賃借人は、付随的義務として、正当な理由なしに近隣住民とトラブルを起こさないように努める義務を負う(東京地判平成20年1月30日)と考えられています。
ご相談内容によると、本件賃借人は、夕方から深夜まで、隣接する駐車場まで聞こえるほどの大音量で毎日のように音楽を流しているとのことですので、本件賃借人は、他の居住者の生活妨害を行っており、正当な理由なしに近隣住民とトラブルを起こさないように努める義務に違反していると判断される可能性があります。
裁判例によると、「居住者間にトラブルがあったとしても、まずは賃貸人から当該居住者に対して相当な注意・指導を行い、改善を図る義務があり、それでも改善が見られない場合に至ってはじめて、信頼関係が破壊されるに至ったものと認められる」(東京地判平成27年11月10日)とされています。
これを前提とすると、本件のように騒音トラブルが生じている場合でも、当該騒音トラブルの発生により直ちに信頼関係の破壊が認められるわけではなく、賃貸人から賃借人に対して、相当の注意・指導を行ったにもかかわらず、賃借人が当該迷惑行為を継続する場合にはじめて、信頼関係が破壊されるに至ったと認められるものと考えられます。
ご相談内容によると、本件賃借人は、夕方から深夜まで、隣接する駐車場まで聞こえるほどの大音量で毎日のように音楽を流しており、貴社からの再三の注意にもかかわらず改善がみられないとのことですので、これらの事情からすると信頼関係が既に破壊されるに至っており、貴社の解除が認められると判断される可能性があります。
もっとも、実際に裁判において、賃借人の債務不履行を立証するためには、本件賃借人の出している騒音の程度及び騒音が発生している時間帯等を立証する必要がありますので、本件賃借人が出している騒音の音量を測定し、その時間帯と共に記録するなどの方法で証拠を集めることをお勧めいたします。