ハラスメント
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#マタハラ
監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員
会社内でパワハラなどのハラスメントが発生した場合に、会社が受けるリスクとして真っ先に浮かぶのが、法的責任だと思いますが、実はそれだけではありません。
ハラスメントが起きると、生産性の低下や退職者の増加、企業イメージの悪化など、会社経営を揺るがす事態へと発展しかねません。
ハラスメント防止法も年々強化されている中で、いかにハラスメントを防止していくかは、企業にとっての重要な経営課題であるといえます。
そこで、このページでは、どのような行為がハラスメントに該当するのか、実際にどのようなハラスメント防止策に取り組めばいいのかについて、解説していきます。
目次
企業がハラスメント防止策に取り組む必要性
職場でのハラスメントは、社員の能力発揮を妨げるだけでなく、会社の社会的信用を大幅に低下させる事態になりかねない労務管理上の問題です。
会社は社員の健康や安全を守り、働きやすい職場環境を保つべき、安全配慮義務を負っています(労契法5条)。
そのため、すべての会社がハラスメントを防止策に取り組む必要があり、これを怠ると、安全配慮義務違反などを理由に、損害賠償請求されるおそれがあるため注意が必要です。
また、ハラスメントが発生すると、被害者である社員はもちろん、それを見聞きする周りの社員のモチベーションが下がり、ひいては会社全体の生産性が低下し、優秀な社員の流出へとつながります。
また、SNS等で告発されれば、企業イメージの悪化は免れません。
会社として生産性や競争力を高めるには、ハラスメントの防止やハラスメントへの適切な対応が必須です。
2020年に改正されたハラスメント防止対策の義務化
2006年の均等法改正により、会社に「セクハラ防止対策」、2016年の育介法改正により、「マタハラ防止対策」がそれぞれ義務付けられました。他方、パワハラについては、これまで法整備がなされていませんでした。
しかし、労働局への相談のうちパワハラが圧倒的に多いという現状があったことから、パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)が大企業は2020年、中小企業は2022年4月から適用されました。
つまり、現在では、すべての企業に、3つのハラスメント防止策を講じることが義務付けられています。
これらの義務を果たさないと、厚生労働大臣による指導・勧告を受ける、悪質と判断された場合は、企業名が公表されるおそれがあります。
ハラスメント防止のために知っておくべき該当行為の具体例
職場でのハラスメントは、社員の心や尊厳を傷つける許されない行為であり、能力発揮の妨げにもなります。
また、生産性の低下や損害賠償責任など、会社に与えるリスクも大きいです。
このようなリスクを伴うハラスメントを防止するためには、まず、前提として、どのような行為がハラスメントに該当するのか理解しておくことが重要です。
職場で発生する可能性のある代表的なハラスメントとして、以下が挙げられます。
- パワーハラスメント
- セクシャルハラスメント
- マタニティハラスメント
以下で各ハラスメントの定義や該当例について見ていきましょう。
パワーハラスメント
パワハラとは、職場での優位性を利用して、社員に仕事の範囲を超えた嫌がらせをすることをいいます。
法律上、以下の①~③すべて満たす言動がパワハラと定義されています(労働施策総合推進法30条の2)。
職場において行われる優越的な関係を背景とした言動
仕事を行うにあたって、立場的に逆らうことが難しい関係を背景に行われる言動を指します。
年齢や役職、立場だけでなく、専門性や経験、学歴などの上下関係も含まれます。業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
社会の一般常識からして、業務に必要のない、又はその態様が相当でない言動を指します。
必要以上に長時間、繰り返し叱責する、人前で侮辱する、人格を否定するといった言動が挙げられます。就業環境が害されるような言動
パワハラを受けた被害者が心身不調となり、出社できなくなる、能力を十分に発揮できなくなるような言動を指します。
被害者の感じ方ではなく、社会⼀般の労働者であったらどう感じるかを基準に判断されます。
パワハラは以下の6類型に分類されます。
言動の類型 | パワハラに該当すると考えられる例 |
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身体的な攻撃 |
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精神的な攻撃 |
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人間関係からの切り離し |
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過大な要求 |
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過少な要求 |
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個の侵害 |
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パワハラが発生した場合は、当事者同士を引き離したうえで、事実関係の調査や事実認定、被害者へのフォロー、加害者への処分といった対応を行う必要があります。
セクシャルハラスメント
セクハラとは、職場における性的な言動により、社員の仕事環境を害することをいいます。
法律上は、以下の2要件を満たすものがセクハラと定義されています(均等法11条1項)。
職場で行われる労働者の意に反する性的な言動
職場とは、オフィス内だけでなく、出張先、取引先、宴会の場なども含まれます。
性的な言動とは、性的な事実関係を質問する、食事への執拗な誘い、性的関係の強要、必要なく体に接触するといった言動が挙げられます。性的な言動への対応により労働条件につき不利益を受けたこと、または性的な言動により就業環境が害されたこと
「不利益を受けた」とは、性的な言動への拒絶をきっかけに、解雇、降格、減給、異動などの不利益を受けたことを指します(対価型セクハラ)。
また、「就業環境が害された」とは、性的な言動を受けたことで、メンタル不調となり、出社できなくなったり、業務に支障が出たりすることです(環境型セクハラ)。
セクハラに当たる行為として、以下が挙げられます。
セクハラの種類 | 具体例 |
---|---|
対価型セクハラ |
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環境型セクハラ |
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マタニティハラスメント
マタハラとは、妊娠・出産したことや、産前産後休業・育児休業等を利用・希望したことなどを理由に、職場内で嫌がらせを受けることをいいます。
マタハラは、以下の2つのタイプに分類されます。
①制度等の利用への嫌がらせ型
妊娠・出産・育児に関する制度等の利用を希望する社員に対し、解雇など不利益な取扱いの示唆、制度利用の妨害、嫌がらせなどを行うことをいいます。
(例)
- 産休を取りたいと上司に相談したら、「休みを取るなら退職してもらうしかない」と言われる
- 子の看護休暇をとろうとしたら、同僚から「明日は休まれたら困る」と言われる
②状態への嫌がらせ型
妊娠・出産したこと自体に対して、解雇等の不利益な取扱いを示唆する、嫌がらせなどを行うことをいいます。
(例)
- 上司に妊娠を報告したら、「他の人を雇うので辞めてもらうしかない」と言われる
- 「妊婦はいつ休むか分からないから、仕事は任せられない」と言われ、雑務のみさせられている
なお、妊娠・出産の対象者は女性社員限定ですが、育児休業等については男性社員も対象となり、男性の育児休業に関するハラスメントを「パタニティハラスメント」といいます。
具体的なハラスメント防止策8つ
事業主の方針の明確化と労働者への周知・啓発
人事労務の担当者でなければ、会社の就業規則やハラスメント規程などについて確認する機会は少ないものです。
ハラスメントに関するルールや会社の方針がどのような内容になっているのか、社員自身よく知らないということも多々あります。
そのため、社内研修やパンフレットの配布などを通じて、ハラスメントを禁止すること、懲戒の対象とすること、どのような言動がハラスメントに当たるのか、ハラスメントが発生した場合の対応ルールなどについて、社員に周知・啓発することが必要です。
また、就業規則のハラスメントに関する条文・懲戒処分の条文などの確認も必要です。内容に不備がある場合は見直しを行いましょう。
ハラスメント防止研修の実施
社員のハラスメント防止への意識を高めるため、ハラスメント防止研修を実施しましょう。
研修の方法として、弁護士などが講師を務めるセミナーへの参加やオンライン講座の利用などが挙げられます。
研修では、どのような言動がハラスメントに当たるのかを理解した上で、日頃の社員同士のコミュニケーションや部下への指導が、ハラスメントに該当していないかを会社全体で確認することが必要です。
特にセクハラについては、男女の価値観の違いについても理解を深める必要があります。また、マタハラについては、妊娠・出産・育児に関する法律等について確認した上で、男女共に働きやすい労働環境を作るにはどうすれば良いかという点も話し合うべきでしょう。
なお、部下を指導する管理職と、責任を負わない一般社員とでは、直面する問題やその対応も異なりますので、研修は管理職と通常の社員とで分けて行うとより効果的です。
相談窓口の設置
ハラスメントの相談に対応するための相談窓口を設置し、その存在と相談方法をあらかじめ社員に周知することが必要です。
また、相談があった場合の対応方法を、マニュアル作成や相談担当者への研修等により準備しておくことも求められます。
社内だけでの対応に不安がある場合は、弁護士やメンタルヘルスの専門家など外部機関に相談への対応を委託するという選択肢もあります。
事実関係の迅速かつ適切な対応
ハラスメント行為が発生したら、ハラスメント対策委員会等が事実関係を迅速かつ正確に確認することが必要です。
被害者から受けたハラスメントの内容や日時、場所、経緯等について聴取します。その後、被害者の同意を得たうえで、行為者からも聴き取りを行います。被害者の訴えるハラスメントが事実であるのか、行為者と被害者の事件以前・以後の関係などについてヒアリングします。
また、当事者の言い分が一致しない場合は、同僚など第三者からも事実関係を聴取する必要があります。
事実確認にあたっては、先入観を持たず、両当事者の言い分を公正中立な立場で傾聴することが重要です。
被害者への適切なフォロー
内部調査の結果、パワハラがあったことが確認できた場合には、速やかに被害者をサポートするための措置を講じる必要があります。例えば、以下のような措置が挙げられます。
- 被害者と加害者の執務場所の引き離しや部署異動(ただし、被害者の同意が必要)
- 被害者と加害者の関係改善に向けてのサポート
- 被害者の労働条件上の不利益の回復
- 被害者の職場環境の改善
- 産業医やメンタルヘルスの専門家等による定期的な面談の実施
- 休暇の付与
被害者への対応で最も重要なポイントは、被害者の不利益を回復し、被害者が正常に働ける環境を整備することです。
また、基本的に、被害者に対する不利益処分を行うことはできないことに注意する必要があります。
加害者に対する懲戒処分等
ハラスメントであると認定された場合は、就業規則などの社内ルールに基づき、加害者に対し必要な処分(懲戒処分や改善指導、配置転換など)を検討します。
もっとも、懲戒処分を行うには、就業規則等にハラスメントに関する懲罰の条文が定められており、社員に周知されていることが大前提となるため注意が必要です。
懲戒処分の種類は、軽い順から、譴責や戒告、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇などが挙げられます。
処分の際に重要なポイントは、加害者に弁明の機会を与えることです。
懲戒処分は、加害者にとって、その後の職業生活が揺らぐ事態になる可能性が高く、処分を不服として訴訟を起こされるリスクもあります。そのため、適正な手続きを踏むことが重要です。
社員を懲戒処分する際の注意点について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
さらに詳しく再発防止のための対策
ハラスメントが発生してしまった場合は、再発を防止するための取り組みも重要です。
今回の案件を踏まえて、原因を究明した上で、同じことが繰り返されないよう、以下のような再発防止策を講じることが必要です。
- 社内報やパンフレットの配布等による注意喚起
- 全社員を対象にハラスメント研修や個人面談、アンケート調査等の実施
- 加害者に対する再発防止研修の実施
- 今回の相談対応の流れにおける反省・改善策の検討(相談窓口の体制や会社のルール、研修内容などの見直し)
- 管理職登用条件の明確化(ハラスメント行為をしない人を昇格の条件とするなど)
- 職場環境の改善を図る(評価制度の再設計や組織編成の見直し、残業の削減、業務内容や業務量の見直し、社内コミュニケーションの活性化など)
- ハラスメント報告書の作成
当事者のプライバシーの保護
ハラスメントにかかわる内容は、すべてプライバシーに関わるものといっても過言ではありません。
窓口での相談や事実関係の確認など一連の対応について、被害者や加害者等のプライバシーを保護するために十分に配慮しなければなりません。
プライバシーを保護するための対策例として、以下が挙げられます。
- プライバシー保護のために必要な事項をマニュアルに定め、周知する
- 調査担当者や当事者、関係者に情報を漏らさないよう守秘義務を課す
- 相談を外部の会議室で行うなど、当事者のプライバシーに配慮した相談場所を定める
- 調査資料は関係者以外アクセスできないよう制限し、厳重に保管する
- 相談時に、当事者に対し、個人情報やハラスメントの内容等について、「誰に」「どの範囲まで」共有してよいのかについて、あらかじめ確認を行う。
ハラスメント防止策に関する裁判例
ここで、ハラスメント防止策が争点となった判例をご紹介します。
【東京高等裁判所 平成29年10月26日判決 さいたま市環境局職員事件】
(事案の概要)
さいたま市の職員であったAの遺族が、Aの教育係であった業務主任Bから暴行及び暴言等のパワハラを受けたため、職員Aがうつ病を悪化させて自殺したとして、使用者であるさいたま市に対して、安全配慮義務違反等に基づき、損害賠償を求めた事案です。
(裁判所の判断)
裁判所は、①業務主任Bは自己主張が強く協調性もなく、言葉づかいが乱暴で、他にもBから嫌がらせを受けていた職員もいたことが認識されていたこと、②職員Aが業務主任Bより暴行や暴言を受けたことについて一度は話し合いの場を設けながら、職員Aの申し入れにもかかわらず、再度の協議の場を設けることがなかったこと、③職員Aにはうつ病の既往歴があった事実を認定しました。
その上で、所長Cや係長Dは、職員Aの相談を深刻な事態ととらえ、パワハラの事実関係を調査し、パワハラが直ちに認められない場合でも、既往症のある職員が相談を持ち掛けたことを重視して、業務主任Bの配置転換や、主治医や産業医に勤務の継続の可否について相談するなどの措置を講じ、職員Aがうつ病を憎悪させないよう配慮するべき義務があったにもかかわらず、これらを怠ったとして、さいたま市の安全配慮義務違反を認めました。
(判例のポイント)
裁判所は、パワハラが発生した場合は、使用者として事実関係を調査し、その結果にもとづき、再発防止や被害者へのフォロー、加害者への処分などを実施する必要があるにもかかわらず、これを怠った結果、職員Aの心理的負荷を高めたと判断しています。そのため、ハラスメント問題については、予防策も重要ですが、事後の適切な対応も必須であると考えられます。
また、裁判所は、所長Cが、職員Aの自殺願望まで訴えられていながら、医師の意見を聴取することなく、自己判断で対応した点も安全配慮義務違反と示しています。そのため、メンタルヘルス不調等の社員への労務管理上の対策については、産業医等と連携して対応することが必要でしょう。
ハラスメントの防止策について弁護士にご相談下さい。
防止策の実際の取り組みは、最終的には企業自身が決定し、実行しなければなりません。
ただし、そのやり方を誤ると、安全配慮義務違反に問われるなど、法的リスクを伴います。
リスクを最小限に抑えるためにも、労働問題の専門家である弁護士の力を借りて、ハラスメント防止策を強化することをお勧めします。
弁護士法人ALGはハラスメント問題を得意としており、就業規則やハラスメント規程の整備、予防研修、内部調査の方法など、効果的な防止策についてご提案することが可能です。
また、ハラスメント研修を講義することにも対応していますので、ぜひご相談ください。
この記事の監修
弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員
- 保有資格
- 弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
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