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ニューズレター
2024.Sep vol.118
不動産業界:2024.9.vol.118掲載
私は、「ペット飼育可能」の条件でマンションを賃貸しているオーナーです。
ただ、ペットを飼育する賃借人に対しては、1ヶ月分の賃料にあたる敷金を追加で支払ってもらうこととし、この追加分の敷金については、賃貸借契約終了時に返還しないこととしています。
この度、上記の条件で賃貸借契約を締結していた賃借人から、「追加分の敷金を返還しないことについて合意はしたが、敷金は必ず返還しなければならないものなので、このような合意は無効だ」と言われてしまいました。
このような賃借人の主張は正しいものなのでしょうか。
敷金については、民法上、賃貸借契約が終了した際に賃借人が賃貸人に対して返還するよう請求できる権利(敷金返還請求権)が定められていますが、契約自由の原則に基づき、このような定めと異なる合意をすることも可能であると解されています。
そのため、当事者間で敷金を返還しない合意をしたのであれば、そのような合意も有効となるのが原則です。
もっとも、返還しないとする敷金の額がかなり高額である場合には、敷金を返還しない合意が消費者契約法違反であるとして無効となる可能性もありますので注意が必要です。
以下、詳しくみていきましょう。
「敷金は、賃貸借契約終了時に償却することとし、賃借人に返還しないものとする。」というような、敷金を返還しない約定のことを「敷引特約」といいます。関西や九州といった西日本の賃貸借契約で採用されることが多い敷引特約ですが、それ以外の地域でも、ペットの飼育を条件として敷引特約が定められるケースはよく見かけます。
敷金は、賃借人が退去する際の未払賃料や原状回復費用に充てる担保のようなものであり、余った敷金は賃借人に返還しなければならないことが民法622条の2第1項に定められています。
そうすると、敷引特約はこのような民法の規定に反するもので、法律違反になるものとも思えますが、一般に、契約当事者間で合意した内容は、それが公序良俗や強行法規に反するものでない限り、契約自由の原則に基づき有効と解されています。
そのため、敷引特約も、当事者が敷金から一定額を控除することを合意した以上、有効となるのが原則となります。
もっとも、強行法規である消費者契約法10条により、消費者の権利を制限し又は義務を加重する特約のうち、信義則に反して消費者の利益を一方的に害する定めは無効とすることが規定されています。
敷引特約が消費者契約法10条に抵触するか否かが争点とされた事件において、最高裁は、消費者契約である賃貸借契約においては、賃貸人との交渉によって敷引特約を排除することが困難であること等からすると、敷引金の額が高額過ぎる敷引特約については、特段の事情のない限り、信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって、消費者契約法10条により無効となると解するのが相当であると判示しました(最判平成23年3月24日)。
そのため、敷引金の額が高額過ぎる場合には、敷引特約が消費者契約法に抵触して無効となる場合があるものと考えられます。もっとも、ご相談いただいたように月額賃料の1ヶ月分程度の敷引金を定める敷引特約であれば、消費者契約法に抵触しないと判断される可能性が高いものといえます。
<敷引金の額が高額過ぎる場合ってどれくらい?>
敷引特約が消費者契約法に抵触するか否かは、損耗の補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らして判断するものと判示されており、明確な指標があるわけではありません。
もっとも、上記判例の事案については、敷引金の額が賃貸期間の長短に応じて月額賃料の2倍弱から3.5倍強に設定されていたものの、消費者契約法に違反しないとの判断がされていますので、月額賃料の1ヶ月分程度であれば敷引金の額が高額過ぎる場合に当たらないと判断されやすいものと考えられます。