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ニューズレター
2024.Oct vol.119
不動産業界:2024.10.vol.119掲載
賃貸物件の管理会社である当社は、空室期間の電気料について、当社の名義で電力会社へ電気の使用申込みを行い、電気料金を支払っております。
2年前に賃貸借契約をして入居した入居者がおり、当該入居者は、電気契約の申込みをしないまま電気の使用を続け、入居後の電気料金は、空室期間と同様に、当社が支払っていました。当社は、入居者が契約締結をしていないことに気付かなかったため、契約案内や停止措置等を特に講じておりませんでした。
退去に際して初めてその点に気付き、事情をお伝えした上で入居者へ電気料金の支払いを求めたところ、電気料金の支払いを拒否されました。
当社としては、入居していた期間の電気料金を請求したいと考えておりますが、このような請求は認められないのでしょうか。
電気料金について、入居者には電気供給契約に基づく電気料金の支払義務はないと考えられますが、管理会社の負担で入居者が電気を利用していたということであれば、管理会社は、入居者に対し、入居者が入居してから退去するまでに管理会社が支払った電気料金を不当利得として、返還を請求することができると考えられます。
以下、詳しくみていきましょう。
電気供給契約において、契約上の電気料金の支払義務は、契約の当事者にあるのが原則です。したがって、入居者が電力会社との間で電気供給契約を締結していない場合、当該入居者は、電気供給契約の当事者ではないため、電気料金の支払義務はないと考えられます。
もっとも、本件のように、管理会社の負担で入居者が電気を利用していた、ということであれば、管理会社が、入居者に対し、不当利得返還請求(民法703条)をすることが考えられます。
民法703条では、「法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者…は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。」と規定されています。
本来、居室における電気は、電気供給契約を締結し、電気料金を支払った者のみが利用できると考えられます。しかし、本件では、入居者は、入居者自身の入居した部屋(以下、「本件部屋」といいます。)について、電気供給契約をしないまま、本件部屋において電気を利用する一方、入居者自身は電気料金を支払うことなく、管理会社が、当該電気料金を支払っていたとのことです。
そうすると、入居者は、管理会社の金銭という「他人の財産」により、電気の利用という「利益を受け」た一方、管理会社は、電気料金の支払いという「損失」を受けていると判断される可能性が高いと考えられます。
また、入居者は、本件部屋について電気供給契約をしておらず、電気料金の支払いもしていないことから、「法律上の原因」がないと判断される可能性が高いと考えられます。
そして、入居者は、本来、入居者自身が支払うべき電気料金を支払うことなく、電気を使用し続けている上、管理会社から入居者に対して、入居者が支払うべき電気料金を請求したものの、支払いを拒否しています。そうすると、管理会社が、本件部屋の電気供給契約の契約者として支払っていた期間の電気料金について、「その利益」が現存していると判断される可能性が高いと考えられます。
以上のことからすると、入居者は、電気料金の支払いを免れる理由はなく、管理会社は、入居者に対し、管理会社が本件部屋の電気供給契約の契約者として支払っていた期間の電気料金を請求することができると考えられます。
なお、管理会社が請求できる範囲は、入居者による電気の利用開始時から退去日までの期間に、管理会社が支払った電気料金相当額となるのが基本ですが、管理会社が契約している電力会社の電気料金が一般的な水準よりも高額である場合や入居者が電気を使用しなかった月に発生した最低料金等がある場合には、一定の減額が認められる可能性があることには留意が必要です。