ニューズレター
2017.Jan Vol.26
不動産業界:2017.1.vol.26掲載
アパートの賃貸をしているんだけど、101号室の入居者さんが、「うちの家賃は5万円なのに、102号室の家賃は4万円って聞いたぞ!同じ間取りなのに不公平だ!うちの家賃も4万円にさせてもらう。」と言ってきて、その後本当に家賃が4万円しか入金されなくなっちゃったんだよ。こんな一方的な賃料減額請求が認められるのかい?
賃貸借契約開始後、不動産の価格が著しく下落したり、同じような条件の建物と比して賃料が著しく低額になってしまったような場合、賃借人は賃貸人に対して、賃料の減額を請求することができます。この場合、賃借人は賃貸人の同意がなくとも賃料を減額できます。
えっ!じゃあ賃借人から「賃料は1万円が妥当だ!」とか言われたら、賃貸人はそれを受け入れなきゃならないのかい!?
まあまあ、あわてずに最後まで聞いてください。賃料の減額請求がされた場合、まず賃貸人・賃借人間で賃料減額について協議をすべきでしょう。協議が調わない場合には、賃借人からの賃料減額請求が妥当かどうかは最終的には裁判によって決定されることになりますが、この賃料減額の裁判が確定するまでの間は、賃貸人は自らが相当と認める額の賃料の支払いを請求できます。したがって、裁判による判断を待たずして、賃借人が一方的に賃料を減額して支払うような場合、賃借人は賃料未払いの債務不履行責任を負います。場合によっては賃料未払いに基づき賃貸借契約解除ができる可能性があります。
建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、当事者は建物の借賃の額の増減を請求することができます(借地借家法32条1項)。
このとき、賃料増減請求の妥当性は、当事者が現実に合意した直近の賃料を基にして、その合意された日から当該請求の日までの間の経済事情の変動等を考慮して判断されなければなりません(最高裁平成20年2月29日)。
したがって、賃料増減請求の妥当性は、単純に「隣の部屋よりも賃料が高い」といった事情のみで判断されるのではなく、「当事者間で最後に賃料の合意をしてからどの程度事情が変動したか」といった事情が重視されることになります。
賃料の減額について当事者間の協議が調わない場合、減額を正当とする裁判が確定するまでは、賃借人は賃貸人が相当と認める賃料を支払わなければなりません(同条3項)。
したがって、例えば、賃貸人が従前と同一の賃料を相当と認める場合、賃借人は、裁判が確定するまでの間、従前と同一の賃料の支払義務を負うことになります。
このような場合に、賃借人が賃料を一方的に減額して支払えば、賃料未払いとして債務不履行責任を負います。これにより当事者間の信頼関係が破綻しているような場合には、賃貸人は賃貸借契約を解除して、建物の明渡しを求めることもできます(東京地裁平成10年5月28日)。
訴訟等において賃料の減額を相当とする裁判が確定した場合、賃料減額の効果は裁判がなされた時点ではなく、賃料減額請求がなされた時点に遡って発生します。
しかしながら、前述のとおり、賃借人は賃料減額請求をしてから賃料減額の裁判が確定するまでの間は、一方的な賃料減額はできませんので、後から賃料減額が相当と認められた場合、賃料は余分に支払われていたことになります。
したがって、最終的に賃料減額を相当と認める裁判が確定した場合には、賃借人は賃貸人に対し、余分に支払われていた賃料の返還を求めることができます。賃貸人は裁判が確定するまでの間余分に支払われていた賃料について年1割の利息を付した上で返還する義務を負います(借地借家法32条3項)。
原則として、賃借人が裁判の確定を待たずして、一方的に賃料を減額して入金することは法律上認められておりません。このような一方的な賃料の減額がされ、当事者間の信頼関係が破壊された場合には、賃貸人は契約を解除することができます。このときの信頼関係破壊の有無の判断は、「賃貸人が減額請求に対して誠実に協議したか」といった事情も考慮されますので、入居者さんから減額請求がされた場合には、まずはしっかりと話し合うことが大切です。