ニューズレター
2017.Jun Vol.31
不動産業界:2017.6.vol.31掲載
賃貸不動産のオーナーをしているのだけど、最近、民法が改正されたとニュースで見たんだけれど、何か変わってしまうことがあるのかしら?
のんびりしていると取り残されそうな気がしていて不安なんだけど大丈夫かしら?
平成29年5月26日に民法改正法案が国会で成立しました。民法は、日本における取引関係の基本を定めるルールですので、さまざまな影響が考えられています。とはいえ、実際に施行されるのは、公布の日である平成29年6月2日から3年を超えない日とされており、実際に適用されることになるにはまだ猶予があります。
また、不動産賃貸借の分野については、これまで、判例や国土交通省のガイドラインなどによって民法の適用について補充されてきていたため、大きな変化はなさそうです。
一点、賃貸借契約でよく利用されている個人の保証人については、限度額を定めなければ無効となることには、特に注意が必要でしょう。
民法改正によって、賃貸借契約の条文も多くの部分で修正されています。よく言われているのは、①敷金や原状回復のルールが民法に定められることになったこと、②賃貸人の地位の移転に関するルールが同じく民法に定められることになったこと、③賃貸物件の修繕に関する規定が定められたこと、などがあげられます。
しかしながら、①については、これまでも一般的な契約書で定められてきた敷金の内容とほとんど変わらないため、敷金自体の取り扱いに大きな変化はないでしょう。一部影響があるとすれば、事業用建物の賃貸借などにおいて、保証金として受領する金員について、場合によっては経過年数に応じて一部を償却して返還義務を負わない旨の合意をする場合に、賃貸借契約の金員に対する担保とする範囲を明確にしておかなければ、敷金と評価されてしまい、償却することが叶わなくなるおそれはあるかもしれません。
また、原状回復のルールについても、判例及び国土交通省のガイドラインが、通常損耗を原状回復の範囲から除外してきたことを民法が明示するにすぎません。これは任意規定と呼ばれるものであるため、合意により変更することができるため、これまでと同様に、通常損耗を負担させることを明確に合意し、その内容が不合理でない場合には、有効に通常損耗部分を含めた原状回復義務を負担させることは可能と考えられています。
次に②については、これまで明確になっていなかった点も定められていますが、影響のあるオーナーは少ないと思われます。なぜなら、賃貸人が不動産の所有権を移転した場合に、賃貸人の地位が新たな所有者に移転するということは、これまでの判例と同じ結論だからです。これまでとは異なる結論になるのは、所有権の移転と賃貸人の地位の移転を分離することが合意により可能となるという点です。これまでの判例は、賃貸人の地位は元の所有者に残すという合意がある場合であっても、所有権が移転する以上は、新たな所有者に賃貸人の地位が移転するとしていましたが、今回の民法改正でこれが改められることになりました。これを活用するオーナー以外には影響はあまりないでしょう。
③では、これまで賃貸物件が滅失して使用が妨げられた場合に、賃料の減額を請求することが「できる」とされていましたが、請求されなくとも、当然に減額されることになりました。さらに、滅失のみではなく、「その他の事由」も追加されたため、建物自体は滅失していなくてもライフラインが使用できない場合なども含まれる可能性があります。賃借人にとって有利な改正といえますが、実務上、滅失に限らず、賃貸物件の利用に支障がある場合には賃料の減額などにより解決されている事例は多いと思われ、実際の影響はそこまで大きくないと思われます。
今回の民法改正において、過去の判例等の反映ではなく、大きな影響のある改正と考えられるのが、保証分野に関する規制です。将来発生する不特定の債務を保証することを内容とする個人根保証契約と呼ばれる類型について、限度額を定めなければ、無効とされることになりました。
賃貸借契約における連帯保証人は、賃貸借契約から生じる一切の債務を保証する旨定められていることがほとんどであり、限度額が定められていることは非常に少ないでしょう。契約書の見直しをすることなく、改正民法が施行された場合、その後に締結された賃貸借契約の連帯保証は無効となってしまうと考えられますので、契約書自体を変更しておく必要があるでしょう。