ニューズレター


2018.Jan vol.38

抵当権の実行と賃貸借の保護


不動産業界:2018.1.vol.38掲載

私は、自分の土地に賃貸マンションを建てて賃貸しています。このマンションの建築費用を銀行から借入れる際、抵当権を設定したところ、他の事業が難航し返済がままならなくなりマンションが競売にかけられることになりました。私と契約した賃借人は、今後どうなるのでしょうか。


まず、本件では、マンション新築の際、抵当権が設定されているため、賃借人に対してマンションが引き渡された時期は、抵当権設定登記よりも遅いことになります。このような場合、抵当権が実行されマンションが競売にかけられたときは、賃借人は、マンションの買受人に対して、賃貸目的物を引き渡さなければなりませんが、買受人の買受時から6ヶ月を経過するまでは引渡しが猶予されます。
ただし、賃借人が、抵当権者から賃貸借の存続に同意を得てその旨を登記していた場合には、競売後もそのまま使用し続けることが可能となります。

さらに詳しく

1 建物明渡猶予制度

不動産に抵当権が設定された場合、抵当権設定登記がなされた後に設定された賃貸借は、抵当権に劣後するのが原則です。したがって、何も保護されないとすれば、抵当権が実行された場合、抵当不動産の賃借権者はその賃借権を抵当権者に主張することができず、抵当不動産の競落後には賃借権者は当該不動産を直ちに明け渡さなければならないということになりそうです。

そこで、競売という不測の事態による損害から賃借人を保護するため、抵当権者に対抗できない賃貸借の賃借人も、一定の要件の下、その建物の競売における買受人の買受けの時から6ヶ月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しないとする建物明渡猶予制度が、平成16年4月1日に施行された民法改正により創設されました(民法395条)。

上記制度によれば、競売手続きの開始後に建物を借りた賃借人は、猶予期間は認められず(同条第1項1号)、賃借人が猶予期間中の賃料相当額を滞納した場合(催告後の不履行)、猶予期間は消滅することとなりますが(同条第2項)、これらに該当しない限りは6ヶ月の猶予が与えられます。

また、買受人は、賃貸人の地位を承継するわけではないため、買受人は賃料請求権を有せず、修繕義務を負うことはありませんが、賃借人から不当利得として賃料相当額の支払いを受けることとなります。

2 抵当権者の同意制度

抵当権設定登記がなされた後に設定された賃貸借を抵当権に劣後させるのは、抵当権者の利益を守るためですから、抵当権者が同意した場合には、遅れる賃貸借を優先させてもよいと考えられます。そこで、民法第387条では、すべての抵当権者の同意の登記をした賃貸借に限り、賃貸借に優先する抵当権者が同意した場合、その同意をした抵当権に対抗することができることにしています。

この場合、競売における買受人は、従前の賃貸人の賃貸借に関する義務をそのまま承継するため、建物の修繕義務を負うこととなり、賃借人が競売後において退去する場合には、賃借人に対し敷金を返還することとなります。そこで、賃借権の登記においては、承継される敷金の金額を買受人に公示するため、敷金が登記すべき事項に加えられています。

なお、抵当権者の同意制度は、本件のような賃貸マンションの場合、個々の賃借人が自己の有する賃借権に優先するすべての抵当権者から同意を得ることは困難であると考えられ、サブリース契約における賃借人などに利用されることが多いと考えられます。

本ニューズレターは、具体的な案件についての法的助言を行うものではなく、一般的な情報提供を目的とするものです。

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