ニューズレター


2014.Dec Vol.3

ハイグレードを謳った賃貸物件の落とし穴


不動産業界:2014.12.vol.3掲載

先生こんにちは。最近の不動産業界では富裕層向けに差別化を図ったハイグレードマンションがブームなんですが、ちょっと困ったことが起こってしまいまして……

というのも、数年前に斜面に完工したでデザイナーズでハイグレードなマンションのうち一部を「都市の爽やかな風。穏やかな光差す丘。クオリティの高い環境であなたらしい生活を」なんていう響きのいいキャッチコピーで周辺の物件よりも高額で賃貸に出していたんですが、立地と構造のせいか、どうも湿気の抜けが悪いみたいでカビが発生しやすいんですよね。
そのせいで、賃借人から、
「当初の触れ込みとは違う!」
として賃料の減額や、カビてしまった高級バッグなんかの損害賠償請求を受けているんですが、これって払わなくてはならないんですか?
賃料の減額とかまでしなければならないんでしょうか?
立地や構造上多少の問題はあるとは思うんですが、カビなんて賃借人がしっかり換気していれば防げるものだと思うのですが……


建物の立地や構造上問題があることで、当初の触れ込みとは異なりカビが発生しやすいのであれば、賃料の減額や、賃借人の所有物に関して生じた損害を賠償しなければならないと考えられます。
賃料減額の程度としては同種の裁判例では3分の1程度の減額を認めているものがあります。

なお、カビの発生に関しては賃借人により多少は防止可能であったとしても、賃借人が通常要求される程度の管理を行ったとしても防げなかったであろうカビについては、建物の問題と考えられ、当該事情が賃料の減額や損害賠償責任に関して考慮される割合は低いものと考えられます。

さらに詳しく

賃貸物件の差別化の為、最近はハイグレードやデザイナーズを謳う物件が多く見られるようになりました。
反面、そのような物件は周辺の物件よりも賃料が高額であることが多いことから、賃借人としてもそれ相応の物件であることを期待していることも当然であると考えられます。
そして、そのような物件の中にはデザイン性を重視するあまり、特に日照や通気性等に問題を抱え、予想外にカビが発生するといった事態が生じてしまっている例も散見され、湿気の多い季節ともなると、弊所にもカビのトラブルに関する相談が多数寄せられています。

まず、一般的に建物にカビが発生した場合、賃貸人はどのような責任を負うのでしょうか。  この点、賃貸人には、建物に生じた瑕疵を修繕する義務があるところ、建物に生じたカビが、建物の構造上の問題(立地上の問題があり、当該問題を建物構造で解消できなかった場合も含みます。)に起因する場合には、賃貸人は修繕義務の不履行があるとされます。

その結果として、賃貸人は

① 当該瑕疵により使用収益できなかった部分の割合により賃料を減額せねばならず、
② カビにより賃借人に生じた損害の賠償責任を負います。

そして、特にハイグレードを謳っているようなマンションに関しては、建物の瑕疵、すなわち構造上の問題の有無については通常よりも厳格に判断される傾向にあるようです。

この点、本事例のモデルとした裁判例である東京地裁平成6年8月22日判決では、日照や通風などが十分に得られるといった点をアピールし、ハイグレードを謳い宣伝したマンションに関して、実際はカビ等が発生しやすい構造・立地にあった事案において、

「宣伝にはある程度は歌い文句という側面があることは世の常識ではある」

 としながらも、

「借り手は、賃料が高めであることをも一つの要素として、その宣伝内容の真実性を判断し、質の高い住環境が得られることを期待して入居するものであるから、その実態に宣伝内容とかけ離れた点があり、当該賃貸マンションの提供する住環境に、それほど高額の賃料を支払う程の価値がないことが判明すれば、賃料額はその実態にみあった額に減額されるべきである。」

とし、カビの発生のほか、工事による騒音振動や雨漏りがあったことなどを加味して賃料の約3分の1の額を減額するといった判断をしています。

上述の裁判例からすれば、ハイグレードであることを理由に賃料等が周辺相場よりも高額である場合であって、具体的に特徴をアピールしているような場合には、当該特徴については通常の物件よりも求められる程度が高くなるものと考えられます。

以上から、ハイグレードを謳うことで賃借人にとっては魅力に映る反面、物件には相応の質が求められることになり、賃貸人にとって思わぬ負担が生じる可能性があります。

そのため、物件の管理対応の際には、賃料に見合うだけの対応が求められているということに注意すべきでしょう。

本ニューズレターは、具体的な案件についての法的助言を行うものではなく、一般的な情報提供を目的とするものです。

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