ニューズレター
2018.Apr vol.41
不動産業界:2018.4.vol.41掲載
私が管理するアパートAの隣の一軒家Bの住民から、アパートAの窓から、一軒家Bの庭が丸見えなので、窓に目隠しを設置してくれと言われています。設置しなければいけないのでしょうか。
一軒家Bとの境界線から1メートル未満の距離(民法235条1項)に窓がある場合は、目隠しを設置しなければなりません。
民法235条1項によれば、境界線から1メートル未満の距離において他人の宅地を見通すことのできる窓又は縁側(ベランダを含む)を設ける者は、目隠しを付けなければならないとされています。
この規制の趣旨は、プライバシーの保護と互譲の精神から相隣接する不動産相互の利用関係を調整することにあります。
簡単にいうと、第一に、「境界線から1メートル未満の距離」であること、第二に他人の「宅地」であること、第三に、「窓又は縁側(ベランダを含む)」から見通せることという要件を充たせば目隠しを設置しなければならないと考えてよいでしょう。
第一の「境界線から1メートル未満の距離」は、窓又は縁側の最も隣地に近い点から垂直線によって境界線に至るまでを測定して算出されます(同条2項)。
本件について、仮に、アパートAのそれぞれの窓の一軒家Bの土地に近い点から垂直線によって一軒家Bの境界線に至るまでの距離が1メートル以上であれば、目隠しを付ける必要はありません。
第二に、他人の「宅地」とは、現に建物が建っている土地のことをいうとされています。空き地であれば、目隠しの必要がないと考えられますが、本件の一軒家Bは一戸建てということですので、一軒家Bの土地は、現に建物が建っている土地といえ、「宅地」であるといえます。
第三に、「窓又は縁側(ベランダを含む)」から見通すことができるかについてですが、本件では、窓から一軒家Bの庭が丸見えと言われているので、この要件も充たすことになるでしょう。
それでは、玄関前の通路スペースから隣地を見通すことができるというような場合はどう考えればよいでしょうか。
玄関前の通路スペースは、「窓又は縁側(ベランダを含む)」に含まれませんから、形式的に民法の条文にあてはめてみると、目隠しを設置する必要はないということになるでしょう。
また、実質的にも次のような理由から、「窓又は縁側(ベランダを含む)」には含まれないと考えられます。
先述のとおり、民法235条の趣旨は、プライバシーの保護と互譲の精神から相隣接する不動産相互の利用関係を調整することにあると考えられます。つまり、隣地の一方の者が生活する建物内の「窓又は縁側(ベランダを含む)」から、もう一方の隣地を詳細に見通せてしまうと、見通される側のプライバシー侵害の程度が大きいことから、互譲の精神に基づき、見通すことができる側の住人に目隠しを設置させることで、そのような不利益を解消させようとしているものと考えられます。
玄関前の通路スペースから隣地を見通すことができたとしても、そのようなスペースは通常は一時的な使用に留まり、日常的に使用される訳ではありませんから、「窓又は縁側(ベランダを含む)」から見通す場合に比べて、プライバシー侵害の程度は小さいと考えられます。そうすると、隣地の者に目隠しを設置させるという不利益を被らせてまで保護に値するプライバシーとはいえないのではないかと考えられます。
よって、仮に、玄関前の通路スペースから隣地を見通すことができたとしても、目隠しを設置する必要はないのではないかと考えられます。
なお、他の場所が問題になった場合もこのような利益衡量をして判断するとよいと思います。
境界線から1メートル未満の距離において他人の宅地を見通すことのできる窓やベランダがある場合は、目隠しを付けなければなりませんので、注意しましょう。