ニューズレター


2018.Aug vol.45

豪雨被害に対する不動産の貸主の責任


不動産業界:2018.8.vol.45掲載

この前西日本で、すさまじい規模の豪雨被害があったね。うちが賃貸に出してる不動産には幸いにも被害は出なかったけど、仮に被害が出ても、あれほどの自然災害に基づくものであれば、貸主が借主に対して責任を負うことはないんだよね?


従前に同様の被害が生じている等、貸主側として当該被害の発生を予見するのに必要な情報を提供せずに賃貸借契約を締結した場合等には、豪雨被害に基づき借主に生じた損害について、貸主に賠償責任が生じる可能性があります。

さらに詳しく

不動産の賃貸借契約において、貸主は、借主に対して、賃貸目的物たる不動産に関し、借主側が契約締結を決定するか否かを決定するうえで重要な事実を説明すべき法令上、あるいは信義則上の義務を負うものと考えられています。
この観点から、賃貸借契約の締結前の段階で、貸主となろうとする者が、借主となろうとするものに対して、一定の事項を説明せずに賃貸借契約を締結した場合で、説明しなかった事実に基づき借主に損害が生じた場合には、貸主として、当該損害を賠償すべき責任が認められる可能性があります。

実際にも、地下駐車場の賃貸借契約において、過去に、同駐車場に豪雨による浸水被害が生じていたことを説明せずに契約締結したことが、契約締結時における貸主側の説明義務違反を構成するものと判断され、賃貸借契約締結後に同様に生じた集中豪雨による浸水被害に基づき借主に生じた損害の賠償義務を肯定した裁判例があります(名古屋地裁平成28年1月21日判決)。
同時案の賃貸目的物である地下駐車場には、本件の賃貸借契約の締結時から過去10年間に5回程度豪雨による浸水被害が生じていた他、うち2 回は、実際に、駐車されていた車両に対して浸水による被害が生じていたという状況でした(設置されている排水設備の排水能力を向上させる等の対応はとっていませんでした)。
当該状況において、契約締結前に、貸主側から借主側に対して、過去に浸水によって車両に被害が生じた事実を告げないまま、賃貸借契約を締結したところ、契約締結後に、少なくとも、60分間最大雨量にして、直近、浸水による車両被害が生じた豪雨と同程度の集中豪雨(総雨量を比較すると、直近の6 割程度にとどまります。)が発生した結果、同豪雨による浸水被害によって借主の所有車両が水没したことにより借主に損害が生じたことは、貸主側の説明義務違反に基づくものであるとして、車両の弁償代金(車両の時価)116万5000円全額(及び弁護士費用として損害額の1割金額)の賠償義務が肯定されています。

一方、マンション売買の事案にはなりますが、過去の豪雨によって床上浸水までの被害は生じたことがなかった建物の購入後に、豪雨による河川氾濫によって床上浸水被害が生じたことを受け、マンションの買主から売主に説明義務違反に基づく賠償請求を行った例では、当該被害の予測困難さを理由に、売主側の調査説明義務違反に基づく損害賠償責任が否定されています(東京地裁平成17年1月25日判決)。

このように、大規模な豪雨災害によるものであっても、過去の同様の災害による被害を踏まえて、契約締結前の段階で、貸主側から借主側に対して、少なくとも、被害が生じた事実を告知したうえで契約を締結すべき義務が肯定される可能性があります。
不動産の貸主としては、先日発生したような大規模な自然災害が発生した場合こそ、どの程度の規模の災害によってどの程度の損害が生じるかを記録し、その後の契約に際して告知すべき情報かを精査する必要があると考えられます。

本ニューズレターは、具体的な案件についての法的助言を行うものではなく、一般的な情報提供を目的とするものです。

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