ニューズレター


2018.Oct vol.47

賃借人が逮捕された場合の契約解除


不動産業界:2018.10.vol.47掲載

私が賃貸しているアパートの入居者が、飲み屋で他の客を殴って怪我をさせてしまったということで、傷害罪の容疑で逮捕されました。賃貸借契約書には刑事事件を起こして逮捕された場合は、契約を解除することができるというようなことが書かれています。賃貸借契約を解除して、荷物を処分してしまいたいのですが可能ですよね?


賃借人が逮捕されたというだけでは、契約の解除は難しいと思われます。荷物については、自力救済にあたるので、もちろん、処分してはいけません。住居侵入罪や器物損壊罪が成立する可能性もあります。

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たとえ契約書に賃借人が刑事事件を起こした場合は契約を解除することができるといった趣旨の条項がおかれていたとしても、逮捕の事実のみをもって賃貸借契約を解除できる訳ではないと考えられます。

継続的な信頼関係を前提とする賃貸借契約を解除するためには、賃貸人と賃借人との間の信頼関係が破壊されているといえる必要があり、最終的には、この信頼関係が破壊されたといえるかどうかが重要なポイントとなります。

そして、信頼関係が破壊されているかどうかは、事案毎の個別的な判断となります。どのように判断するかというと、賃貸人側が主張する信頼関係を破壊したといえる事実と、賃借人側が主張する信頼関係が破壊したとはいえない事実とを比べて、最終的には裁判官が判断します。

賃貸人としては、締結している賃貸借契約について、継続的な信頼関係がなくなったということを主張する必要があるので、同じ傷害事件であったとしても、アパートの中で、しかも他の部屋の賃借人に対して殴りかかって怪我を負わせたというような場合であれば、今回のように、アパートとはまったく関係のない場所で、アパートの入居者とはまったく関係のない第三者に殴りかかったというような場合よりも、当該賃貸借契約との関係が強い分、信頼関係が破壊されていると主張する側にとっては強い事実となったと考えられます。殴られた入居者が、それを理由に退去した等の事情があると、なお賃貸人にとって強い事情となるでしょう。

賃借人の部屋に勝手に入って荷物を処分する行為は、自力救済にあたるのでやってはいけません。住居侵入罪や器物損壊罪が成立する可能性もあります。賃借人が任意に明け渡す気があり、賃借人の家族などが荷物の搬出に協力するなどという場合であれば話は別かもしれませんが、原則として、訴訟を提起して、明け渡しを認める判決を取得し、それに基づき強制執行を申し立てる必要があります。

長期にわたり賃借人の身柄が拘束されると不都合が生じるかもしれませんが、そのような場合は、緊急連絡先に連絡するなどして、当該人物(家族であることが多いでしょう)に協力を求め、任意の明渡しの方向を模索することが肝要でしょう。勝手に部屋に入ったり、荷物を処分したりしてはいけません。なお、3か月分の賃料の未払いがあれば契約の解除が認められる傾向にありますので、賃料が支払えないようであれば、すかさず訴訟を提起することができるように準備しておくとよいでしょう。

本ニューズレターは、具体的な案件についての法的助言を行うものではなく、一般的な情報提供を目的とするものです。

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