ニューズレター
2015.Feb Vol.4
不動産業界:2015.2.vol.4掲載
先生ひさしぶり。
最近寒くなりましたねえ。東京でも雪が降っているそうですけど、私の暮らす秋田では、もう本格的な雪の季節になっているんですよ。
東京なんて、数センチ積もったら大騒ぎかもしれないけど、秋田では多い時には数メートル積もりますからもう大変なんです。
今年も既に結構積もっちゃっていて、ただね、先生、私もそんなに若くないし、屋根からの雪下ろしも手間なんです。だから、去年なんかほったらかしにしてた時もあったんですよ。
それで去年の話なんだけどね、ちょっと雪をほったらかしにしてたら、春先ちょっとあったかくなったときに、屋根の雪が落下して、たまたまうちの屋根近くに停まっていた隣の放蕩息子が空ぶかししてた車の上に落ちちゃって、車のボンネットがね、もうべっこり。
あら大変ねえ、怪我なくてよかったわねえ、なんて思っていたら、その放蕩息子が怒鳴り込んできてね。
雪下ろししてないなんてどういうことだ!弁償しろ!!なんていってきたのよ。
でも、雪下ろしをあまりしてなかったからとはいえ、そもそも雪のせいだし、私に責任なんてあるのかねえ。
屋根からの落雪により第三者に損害を与えた場合、家の所有者又は占有者は、当該損害が発生し得ることについて、予見可能性及び結果回避可能性があれば、損害賠償責任を負う可能性があります。
本件では、秋田という雪国の性質からして、雪下ろしが必要なほどの積雪が生じることは通常予見できることであるところ、落雪により通りかかった第三者等に損害が発生し得るものであって、当該損害の結果は適宜雪下ろしにより回避することが可能であるため、車のボンネットの修理代分の損害賠償責任を負うことになるものと考えられます。
なお、急な積雪により雪下ろし等の対処ができなかった場合や、第三者が他の道を通行できるのにわざわざ雪下ろしされていない屋根の下を通った場合などには、損害賠償責任を負わないか、過失相殺により賠償額が一部減額される余地があります。
雪の季節ともなると、弊所にも雪に関する相談が多く寄せられます。その中でも、特に屋根等からの落雪により、隣家や通行人等に被害が生じた場合の損害賠償責任についての質問が多いように思われます。
そこで、今回は、特に落雪に関して損害が生じた場合の法律関係について、解説いたします。
落雪が生じた場合に問題となるのは、不法行為(一般的な不法行為、及び工作物責任に関する不法行為)です。
不法行為というためには、行為者(本件では家の所有者又は占有者。以下、「所有者等」といいます。)に第三者の権利を侵害しないために何らかの義務があるにもかかわらず、当該義務を果たさなかったといった関係が必要であるところ、雪国では積雪が当然に予想され、当該積雪により隣家や通行人等に被害が生じることが予想される(予見可能性がある)ことから、一般的に家の所有者等には当該損害が生じないよう措置を講じる義務があるものと考えられます。
すなわち、家の所有者には雪を降らせないといったような措置を取ることはできないのは当然としても、採りうる措置、より具体的には落雪が生じないように雪下ろしや落雪防止設備等を設置する義務等はあるものと考えられます。
そのため、本件のように大変だからと雪下ろしを怠ってしまうと、上記義務に違反しているものとして不法行為責任を負う可能性があるのです。
落雪に関する裁判例としては、例えば東京地裁平成21年11月26日判決がありますが、家の屋根からの落雪により隣接のペンションの壁面が内部に押し込まれ、かつボイラーの煙突が曲がった等の事案において、家の所有者に損害賠償責任を認めています。
もっとも、雪下ろしを適切に行っていたり、十分な落雪防止設備等を設置しているにもかかわらず、予想外の大雪等により損害が発生してしまう場合もありえます。
そのような結果を回避することができない場合(結果回避可能性がない場合)にまで、不法行為が成立するわけではないため、具体的な事情によっては損害賠償責任を負わない可能性もあります。
また、雪国等の場合、通行人等も落雪があり得ることを当然予期・注意すべきであることから、通行人等がわざわざ落雪の危険性のある屋根下等を通行したような場合には、過失相殺等により、損害賠償責任が減額される可能性もあります。
以上のように、原則として、家の所有者等は、落雪により第三者に発生した損害を賠償する責任を負う可能性がありますので、雪下ろしや落雪防止設備等、十分な措置を取ることが求められています。
落雪の被害は、本件のように物だけに限らず、人に及ぶ可能性もあり、その場合には損害額も莫大なものとなりえますので、ご注意ください。