ニューズレター
2019.Jan vol.50
不動産業界:2019.1.vol.50掲載
私の家の向かい側に葬儀場があります。私の家と葬儀場との間の道路の幅員は15.3mあり、葬儀場の敷地の周囲には、高さが1.78m(その下にあるコンクリート擁壁を含めると2.92m)のフェンスが設置されています。1階からは葬儀場の様子は見えませんが、2階の一部の居室からは、フェンス越しに、葬儀場に参列者が参集する様子だけではなく、棺が葬儀場の建物に搬入される様子や出棺の際に棺が建物から搬出されて玄関先に停車している霊きゅう車に積み込まれる様子が見えるため、強いストレスを感じています。
この葬儀場に対して、フェンスを高くして見えなくするように請求したり、慰謝料を請求したりすることはできないでしょうか。
ケースバイケースの判断にはなりますが、少なくともご質問のケースについては、居宅から葬儀場の様子が見えないようにするための目隠しを設置する措置を更に講ずべき義務も、慰謝料等を支払う義務も負わないとされた判決(最判平成22年6月29日判タ1330号89頁)があります。
上に挙げた最判平成22年6月29日判タ1330号89頁(以下、「本件判決」といいます。)のケースでは、原告は、葬儀場を経営する被告に対し、その営業により日常的な居住生活の場における宗教的感情の平穏に関する人格権ないし人格的利益を違法に侵害されているなどと主張して、視線から葬儀等を隠すために、葬儀場の既設の目隠しフェンス(本件フェンス)を1.5m高くすることと慰謝料等の支払いを求めました。
1審及び2審は、本件フェンスを1.2m高くすることと、慰謝料等の支払いをすることを葬儀場に命じましたが、本件判決は次のとおり判断して、原告の請求を認めませんでした。
葬儀場の営業を行う業者は、その近隣に上記営業の開始前から建っている居宅から、告別式等の参列者が葬儀場に参集する様子や棺が搬入又は搬出される様子等が見えることにより、上記居宅を共有してこれに居住する者が強いストレスを感じているとしても、次の (1)~(4) など判示の事情の下においては、上記の者に対し、上記居宅から葬儀場の様子が見えないようにするための目隠しを設置する措置を更に講ずべき義務も、葬儀場の営業についての不法行為責任も負わない。
(1) 葬儀場と上記居宅との間には幅員15.3mの道路があり、上記居宅において葬儀場の様子が見える場所は2階の一部の居室等に限られる。
(2) 葬儀場における棺の搬入や出棺は、霊きゅう車等を葬儀場の建物の玄関先まで近付けて停車させ、速やかに、ごく短時間のうちに行われている。
(3) 葬儀場の建物の建築やその営業は、行政法規の規制に反するものではない。
(4) 上記業者は、周辺住民により構成される自治会からの要望事項に配慮して、目隠しのためのフェンスの設置、入口位置の変更、防音、防臭対策等の措置を講じている。
葬儀場等の嫌悪施設の設置に関して周辺住民との関係がしばしば問題になりますが、周辺住民が嫌悪施設に対してどのような請求ができるのかを判断する際の参考になる判決であると考えられます。
なお、本件判決は、「(1)~(4) など判示の事情の下においては」と限定していますので、葬儀場が居宅から見える程度、棺の搬入や出棺が行われる時間の長さ、葬儀場の営業等の行政法規ヘの適合性、葬儀場が周辺住民の要望に応じてきたかどうかの経緯等によって、判断が異なる可能性はあると考えられます。