ニューズレター
2019.Mar vol.52
不動産業界:2019.3.vol.52掲載
私たちは、オーナーさんから一括で借り上げた物件を転貸している業者です。最近、オーナーさんが、物件の共用スペースに「ごみは指定日前日までお部屋で保管するようお願いします。」と書かれた紙を貼ったようなのですが、何人かの入居者さんから「いつ出してもいいと言っていたのに話が違う。」と抗議され、管理費の減額まで求められてしまったので、私たちの独断でこの貼り紙を剥がしました。すると、今度はオーナーさんから「勝手に剥がすな。」と怒られてしまいました。
私たちの対応に法律的な問題点はあったのでしょうか。
まず、入居者さんとの関係では、少なくとも民法の下では、賃貸借契約上の義務に違反している可能性は低く、同時に管理費の減額にも応じる必要はないと考えられます。次に、オーナーさんとの関係では、契約条項に定められる管理業務の委託範囲いかんによっては、契約上の義務に違反する場合もあり得ると考えられます。
日常で意識することはないと思いますが、賃貸借契約などの契約の効力は、あくまで契約当事者にしか及ばず、当事者以外の第三者に対する影響もなければ、第三者から影響を受けることもないのが原則です。そして、賃貸人は、賃借人に対し、賃貸物件を使用収益に適した状態にしておく義務(以下「使用収益義務」といいます。)を負います(民法601条)。
今回の相談内容についてみますと、相談者であるサブリース業者(以下「本件業者」といいます。)が賃貸借契約を締結したのは各入居者です(以下、この各契約を「本件各転貸借契約」といいます。)。そのため、本件業者は、各入居者に対し、使用収益義務として「ごみ捨て場を問題なく利用できる状態にしておく義務」を負っているといえます。そこで、次に、建物所有者の貼り紙掲示によって各入居者のごみ捨て場の利用が制限され、本件業者が使用収益義務に違反することになるかが問題となります。しかし、建物所有者は、本件各転貸借契約の当事者ではない第三者ですので、本件各転貸借契約は建物所有者からの影響を受けません。そうすると、建物所有者の貼り紙掲示は、本件各転貸借契約との関係では法的な拘束力はなく、各入居者のごみ捨て場の利用は法律上何ら制限されていませんので、本件業者は使用収益義務に違反しないと考えられます。
建物を所有しているのにごみ捨て場の運用について意見すらできないなんて変だなと思われるかもしれませんが、上で述べたように契約の効力が相対的なものにとどまることに加え、建物所有者と各入居者との間に何らの契約関係も存在していないことからすると、法律的には以上のように整理されることになります。
一方、本件業者と建物所有者の間では、一括賃貸借契約が締結されると考えられます(以下、この契約を「本件一括賃貸契約」といいます。)。通常、一括賃貸においては、賃貸人(建物所有者)が賃借人(サブリース業者)に対して委託する管理業務の範囲を定めることが多く、その範囲は契約ごとによって異なります。そのため、本件一括賃貸契約の中で、ごみ捨てルールの決定などの管理業務が本件業者に委託されているかが重要となります。委託されていれば、ごみ捨てルールの決定は本件業者が行うので、建物所有者に無断で貼り紙を剥がしても本件一括賃貸契約に違反しません。一方、当該管理業務が委託されていなければ、建物所有者がごみ捨てのルールを決定するので、無断で貼り紙を剥がせば本件一括賃貸契約に違反する可能性があります。
いずれにしましても、事象としてトラブルが一つだからといって法律上も一つの紛争になるとは限らないという視点を持つことが大切です。誰と誰のトラブルで、両者の間にいかなる内容の契約関係が存在しているかに着目してみると良いでしょう。