ニューズレター
2019.May vol.55
不動産業界:2019.6.vol.55掲載
私は、所有する土地を、知人に貸しました。賃貸期間は2年間、賃貸目的は資材置き場でした。知人は、契約の際、「資材置き場として土地を使いたい。風雨から守るため、簡単な建物(以下「本件小屋」といいます。)を建てるかもしれない。」と言っていました。土地を貸してから2年が経過したので、私は、知人に対して、土地を返すように伝えました。
すると、知人は、「土地上に小屋を建てているので、あと28年は借りることができるはずだ。」と言ってきました。
この小屋は非常に簡易なものであり、すぐに解体できるものなので、気にかけていませんでした。
私は、来年までに、知人から土地を返してもらえるのでしょうか。
上記知人は、本件における土地賃借権は建物所有を目的とするものであり、「借地権」(借地借家法2条1号)に該当し、借地権の存続期間は30年だから(借地借家法3条本文)、来年以降も、土地を借り続けられると考えているようです。一方、上記貸主は、本件小屋は「建物」(借地借家法2条1号)ではなく、また資材置き場としての土地使用は一時使用であるので、借地借家法3条は適用されず(借地借家法25条)、民法619条1項、民法617条1項1号より、解約申入れをしてから1年後に本件賃貸借契約が終了すると考えているようです。
本件の争点は、①本件小屋が「建物」に該当するかという点と②本件土地の利用が一時使用目的といえるかという点であると言えます。
そこで、以下では、この2点に関する裁判例を紹介します。
① 京都地方裁判所判決/昭和58年(ワ)第584号
「建物」(借地法1条)とは、土地に定着して建設された永続性を有する建物で、屋蓋及び周壁を有し、住居、営業又は貯蔵等の用に供される、独立した不動産をいうと解釈しました。
その上で、問題となった露店設備は、トタン及びテントの屋根が設けられており、商品陳列台を雨露や盗難から防ぐ設備であるといえるが、側面についてみると、南及び東は既存の他人の壁及び塀にべニヤ板を取
り付け、北及び西面は取り外し可能な戸板風の板囲を取り付けているにすぎず、土台も床板も、北西角の柱も存せず、しかも面積も約2平方メートルに過ぎない少面積、簡易なものであるという事情を考慮すると、独立性を有する建物とは言えないと判断しました。
② 福岡高等裁判所判決/昭和28年(ネ)第503号
「一時使用のため借地権を設定したことが明らかな場合」(借地法第9条)とは、賃貸借の目的、動機、建物の設備、構造その他の事情から賃貸借を短期間内に限って存続させる合意があったと認めるべき相当の理由がある場合をいうと解釈しました。
その上で、製材業を営むため空地を貸してほしいとお願いされた土地所有者は、獣医の資格を有していた三男が独立開業のため病院を建設する旨の計画が具体化するまでの長期にわたらない間であれば、貸してもよいと考え、賃貸借期間を5年とし、特約事項として、借主が土地上に建設する建物は明渡しに支障がないよう製材機械ないし材木が雨に濡れない程度の、いつでも取り壊せるバラック建とすること、5年の期間内においても貸主に必要が生じ相当期間前に借主に通知して明渡しを求めた場合には、借主はこれに応ずる旨を約定した賃貸借契約を締結したという事情及び借地料はその後の経済事情の変動にもかかわらず、当初約定の1ヶ月350円のまま据えおかれた等の事情を考慮して、当該賃貸借は一時使用のため借地権を設定したことが明らかな場合(借地法第9条)にあたると判断しました。
本件においても、建築物の構造や規模から、本件小屋の「建物」該当性を判断するとともに、賃貸借の目的・動機その他の事情から本件賃貸借契約を短期間に限り存続させる趣旨であったといえるかにより一時使用目的性を判断することになります。
いずれにせよ、紛争を予防するためには、建ててよい建物の条件や契約を結んだ理由等を、契約書に具体的に記載しておくことが必要であると考えられます。