ニューズレター
2019.Sep vol.58
不動産業界:2019.9.vol.58掲載
私は、マンションを賃貸している賃貸人です。ある日、地震の発生により、当該マンションの一室に設置されている電気温水器に接続された給湯配管が外れたため、室内の床が水浸しとなってしまったようです。
そのため、床に置いていた賃借人の所有物が水浸しとなり、賃借人からその賠償を求められています。
私も賃借人も共に地震保険に未加入のため、保険対応ができません。
地震のような私に責めに帰すべき事由のない場合にまで、私が責任を負うことになるのでしょうか。責任の所在を知りたいです。
本件において、電気温水器の固定が不十分であるなどの事情が認められる場合には、損害賠償責任を負う可能性があると考えられます。
土地の工作物の占有者は、当該工作物の設置または保存に瑕疵があった場合、その瑕疵から生じた損害を賠償する責任を負います(民法717条)。
土地の工作物とは、土地と機能的に一体となって使用されるものをいいます。本件の電気温水器は、電気温水器に接続された配管、さらには漏水のあった物件に設置されたその他の配管と一体となって室内への給湯という機能を果たすものですので、建物と機能的に一体となっており、さらに建物は土地の上に立っていますので、土地と機能的に一体となって使用されているものとして、土地の工作物に該当するものと考えられています。
次に、建物の賃貸人や管理者は、「占有者」に該当します。
そして、「瑕疵」とは、通常有すべき安全性を欠いていることをいいます。我が国では地震が発生するのは通常であることから、工作物が、通常想定される程度の地震によって破損、倒れるような状態である場合には、「瑕疵」にあたると考えられます。本件において発生した地震が、通常起こり得ない大地震である場合には、電気温水器の給湯配管が外れないように処置するのは困難であると考えられますので、このように通常想定しえない大地震が発生した場合には、「瑕疵」はないとされる可能性があります。しかし、通常想定される地震により電気温水器の給湯配管が外れた場合には、「瑕疵」があるとされる可能性が高いものと考えられます。
損害額の話に移ります。占有者が損害賠償責任を負う場合、室内の物については、クリーニング等によって修復可能な場合は修理費相当額、破損し修復が不可能な場合にはその物の時価(購入額ではありません)相当額の賠償をもって足りるものと考えられます。そのため、賃借人から、水浸しによって修復不可能となった所有物の新品を購入する資金を請求されたとしても、その額を支払う必要はないものと考えられます。時価の算定は、経過年数等を考慮して決せられます。
裁判例においては、東北地方太平洋沖地震によって室内の電気温水器から漏水事故があった事案において、当該事故発生建物以外には漏水事故がなかったことから、電気温水器の設置または保存に瑕疵があったとして、電灯改修工事代金相当額等の損害賠償が認められた例があります(東京地判平成23年10月20日参照)。
また、東日本大震災による電気温水器の給湯配管の漏水について、漏水事故の約1年2ヶ月前に実施された業者による給湯配管の点検の際、異常がないと判断され、大震災発生当時、老朽化していたと認めることは困難であるとして、土地工作物責任に基づく損害賠償請求が棄却された例もあります(東京地判平成24年11月26日参照)。