ニューズレター
2019.Oct vol.59
不動産業界:2019.10.vol.59掲載
私は、マンションの管理組合で理事長をしている者ですが、住民(区分所有権者)の中に、管理費を一切支払わない住民(Aさんとします。)がいて、ほとほと困り果てています。
Aさんは、こちらから滞納管理費の支払いを請求する内容証明郵便を送っても居留守を使い、当方の請求に応じる気配がありません。
滞納管理費を回収する方法はないのでしょうか。
あるいは、いっそのこと、Aさんをマンションから退去させることはできないでしょうか。
滞納管理費を回収するには方法としては、管理費請求訴訟を提起する他に、先取特権に基づいて強制執行を申し立て、動産や不動産を換価して管理費を回収する方法があります。
また、ハードルは極めて高いものの、Aさんをマンションから退去させる方法として、区分所有法59条に基づく競売を申し立てる方法もあります。
管理費を滞納する住民に対しては、管理費請求訴訟を提起し、債務名義(勝訴判決)に基づいて当該住民の財産を差し押さえることで回収を図ることができますが、訴訟手続には手間と費用が掛かるため、そもそも提訴に至らないことも多いのが実情です。
この点、管理規約に基づいて、管理組合が滞納管理費の請求権を有する場合、管理組合は、当該債権について、債務者(滞納者)の区分所有権及び建物に備え付けた動産の上に先取特権という担保権を有しますので(区分所有法7条1項)、管理組合は、滞納管理費を回収するために、訴訟手続を経ることなく、強制執行を申し立てることができます。
ただし、滞納管理費についての先取特権を行使するにあたっては、まず、建物に備え付けた動産に対して動産執行を申し立て、なお債権を回収できない場合にはじめて、不動産執行を申し立てて区分所有権を換価し、弁済を受けることになります(民法306条1項、民法335条1項)。
もっとも、動産執行を実行しても、建物内に換価可能な財産が存在することは稀であり、動産執行によって債権の満足を図ることは通常困難です。また、区分所有権に抵当権が設定されている場合、区分所有権の買受可能価格が、手続費用及び先順位抵当権者が有する優先債権の見込額の合計に満たない(要するに、抵当権者の債権額が回収しきれず、担保割れしている)と認められ、不動産執行手続が途中で取り消される場合があるため(無剰余取消と呼ばれています。民事執行法63条)、不動産執行が奏功する可能性は必ずしも高くないという点には注意が必要です。
以上ご説明したような、区分所有法7条に基づく先取特権の実行及び債務名義に基づく財産の差押えによっては滞納額の全額を回収する見込みがない場合、区分所有法59条に基づく区分所有権の競売請求訴訟及びこれに基づく競売申立て(59条競売と呼ばれています。)を行うことも検討に値します。
59条競売とは、区分所有権者による共同の利益に反する行為(極めて長期にわたる管理費の滞納などがこれにあたります。)によって他の区分所有者に与える障害の程度が著しく、かつ、他の方法によってはその障害を除去することが困難な場合に認められる手続であり、その趣旨は、行為者の区分所有権を剥奪することにあります。このような趣旨ゆえに、物件価額よりも多額の担保権が設定されており、物件が担保割れしていても、不動産執行手続が途中で取り消されない点が、59条競売の特徴です。
59条競売は、区分所有権者を区分所有関係から排除するという極めて重大な帰結をもたらすことから、競売請求訴訟の提起には、集会における特別決議が必要であり、かつ、予め、問題の区分所有者に弁明の機会を与えることが必要です(区分所有法59条2項、同58条2項、同条3項)。さらに、他の方法では滞納管理費を回収することができないことを立証するため、他の回収手段を尽くす必要もあります。