ニューズレター
2020.Jan vol.62
不動産業界:2020.1.vol.62掲載
未曾有の台風により、私が貸している建物につながっている電線が外れ、入居者の所有する車両を損傷させました。電線は私が管理できるものではありませんから、事前に対策等はとっていませんでした。この場合に、賃貸人である私は賃借人に対し責任を負う必要はあるでしょうか。
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負います(民法717条1項)。
「土地の工作物」とは、土地に接着して人工的作業をなしたるによって成立するものをいうところ、電線は電柱より接続されており土地の工作物に該当するものと考えられます。判例においても、送電線が「土地の工作物」に該当し得るものである(最高裁第1小法廷昭和37年11月8日判決、民集16巻11号2216頁参照)とされています。
次に、「工作物の設置又は保存の瑕疵」とは、土地の工作物が「通常有する安全性を欠いていること」をいい、土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があったと認められるかどうかは、当該工作物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的、個別的に判断すべきであると考えられています。
本件についてみると、電線が外れた箇所がどこの箇所かによって責任の所在が変わるものと思料します。すなわち、電気通信設備の責任の所在は、電気通信事業者側と顧客側とに分かれており、その責任の所在の境界を分界点と呼び、分界点は保安器(電力会社によって呼称は異なるものとなります。)を境にして、保安器より物件側は顧客の責任とされるものと考えられます。したがって、本件において保安器よりも物件側で電線が外れたのであれば、賃貸人は「占有者」として入居者の車の修理代を負担しなければならないものと思料します。なお、損害として支払う必要のある範囲は、工作物の瑕疵と損害との間に相当因果関係のある範囲となります。修理費に関しては、電線が外れたことによる傷を修復する範囲に限られているのであれば相当因果関係はあるものと思料しますが、修復暦がつくことの査定減(以下「評価損」といいます。)に関しては、裁判例において評価損を認めるものがある一方、認めないものも数多く散見されるところですので、仮に訴訟となった場合には争点の一つとなるものと考えられます。
以上のように賃貸人が責任を負う場合であっても、「損害の発生を防止するのに必要な注意をしたとき」には占有者は責任を免れます(民法717条1項但書)が、必要な注意をしたというには、具体的に危険を避ける対応が必要と考えられており、本件であれば台風が来る前に電気通信事業者等に電線が外れることを防止する措置を依頼する等がこれに当たるものと思料します。このような措置等を施していなければ、必要な注意をしたものとは認められないものと考えられます。
もし、電線が外れた箇所が保安器より外側(物件と反対側)であれば、その部分を管理するのは電気通信事業者と考えられますので、これについての責任は電気通信事業者が負うものと思料されます。よって、賃貸人は責任を負う必要がないものと考えられます。