ニューズレター


2020.Feb vol.63

仲介手数料の承諾はこれからどうすればよい?


不動産業界:2020.2.vol.63掲載

私は、居住用建物の賃貸について仲介業務を行っている者ですが、今回、驚きの判決が確定して困惑しています。その判決というのは、入居予定者(賃借人)の事前の承諾を得ることなく仲介手数料の1ヶ月分を受け取った場合には、賃料の0.5ヶ月分を超える部分が無効になるというものです。
現在、当社では、賃料1ヶ月分の仲介手数料の金額提示を賃貸借契約の締結時に行っているのですが、今後、どのように行っていけばよいでしょうか?


今回の判決においては、入居予定者(賃借人)からの承諾があった「時点」が争点となりました。そして、裁判所は、仲介契約が成立した時点での承諾が必要であると判断し、賃貸借契約が締結された以前の時点で、賃借人からの承諾が必要であるとしました。したがって、賃料1ヶ月分の仲介手数料の金額提示を賃貸借契約の締結時に行っている場合には、事前の承諾がなかったとして、賃料の0.5ヶ月分を超える部分が無効とされ、返還が必要となる事態にまで発展しかねません。賃料1ヶ月分の仲介手数料の承諾については、入居申込みの段階で得ておくなど、これまでの運用を見直してみるべきでしょう。

さらに詳しく

1.仲介手数料に関する法令の定め
宅地建物取引業法(以下「宅建業法」といいます。)は、宅建業者の報酬について、国土交通大臣の定める額を超えて受け取ってはならないと定めています(宅建業法46条)。そして、これを受けて規定されている国土交通省告示によれば、①宅建業者が建物の賃借の媒介に関して依頼者の双方から受けることのできる報酬の額の合計額は、賃料の1ヶ月分以内とし、②居住用の賃貸借にあたっては、依頼者の一方から受けることのできる報酬の額は、当該依頼者の承諾を得ている場合を除いて、賃料の0.5ヶ月分以内とすると定められています(昭和45年10月23日建設省告示第1552号、平成16年2月18日国土交通省告示第100号)。

2.東京地裁・令和元年8月7日判決
同判決(以下「本判決」といいます。)における事案では、入居希望者(後の賃借人、以下「X」とします。)から賃貸の仲介会社(以下「Y」とします。)が、賃料の1ヶ月分に相当する仲介手数料を受け取っていました。そこで、Xは、Yに対し、当該仲介手数料につき、承諾を行わずに支払ったものであり、賃料の0.5ヶ月分を超える額について返還を求めました。前述の国土交通省告示②によれば、依頼者の承諾があれば、仲介手数料として1ヶ月分であっても宅建業法違反とはならないため、本判決においては、XのYに対する承諾があった時点が争点となりました。そして、本判決は、次のように判断しました。

・仲介の依頼を受ける段階で(仲介契約成立時に)報酬額に関する依頼者の承諾が必要である。
・仲介の依頼を受けた宅建業者が仲介業務を行う義務を負うのは、仲介契約が成立した後である。
・仲介契約は、宅建業者が賃貸借契約の成立に向けてあっせん尽力することを約する契約である。
・本件の仲介業者は、依頼者から物件を決めて賃貸借契約を締結する旨の連絡受けた後に、依頼者の勤務先に対し在籍確認を行い、賃貸借契約の条件を確定させ、入居時期の調整業務等を開始した。
・本事案においては、XがYに対し、物件を決めて賃貸借契約を締結する旨の連絡を行った日が仲介契約の成立日である。

本判決において、Yは、仲介契約が成立した時点は、賃貸借契約の締結時であると主張していました。しかしながら、本判決は、仲介契約が成立した日は、この賃貸借契約締結時よりも前であると認定したことから、本件では賃料1ヶ月分の仲介手数料につき、Xによる承諾はなく、Yとして賃料の0.5ヶ月分を超えて受け取った仲介手数料分は不当利得にあたると判断されました。なお、本判決は、Yにより上告されましたが、令和2年1月14日、東京高裁が上告を棄却して確定しています。

本判決からは、「仲介業者が実質的に仲介業務を行う以前に、賃料1ヶ月分の仲介手数料につき依頼者からの承諾を得ておくこと」が重要となります。仲介業者としては、入居希望者からの入居申込書等に基づいて賃貸借契約の対象となる物件について仲介業務を開始することが通常であると考えられます。そこで、この入居申込書を記載してもらう際に併せて、賃料1ヶ月分の仲介手数料につき依頼者からの承諾を得て、さらに記録に残る形としておくことが有用といえます。

本件においては、賃料1ヶ月分の仲介手数料につき依頼者からの承諾があった時点が問題となりましたが、実際にいつの時点で承諾があったものと判断されるかは、仲介業務の実質的な内容が重要となり、疑義が生じる可能性があります。したがって、今回の判決を機に、仲介業者としては、入居申込書に仲介手数料の承諾規定を新たに設けておくなどの見直しが必要となる場合もあると考えます。

本ニューズレターは、具体的な案件についての法的助言を行うものではなく、一般的な情報提供を目的とするものです。

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