ニューズレター
2020.Mar vol.64
不動産業界:2020.3.vol.64掲載
貸していた部屋の元入居者が、荷物を残したまま退去してしまいました。次の入居者も決まっていますし、残された荷物をどうにかしたいと考えています。
元入居者に荷物を運び出すようにお願いしても、いっこうに荷物を運び出してくれません。
こちら側で搬出、処分してしまいたいのですが、なにか問題があるのでしょうか?
問題なく行うとすれば、どんな方法があるのでしょうか?
勝手に元入居者様の荷物を撤去、処分してしまうと、元入居者様から損害賠償を請求される可能性があります。
これを避けるためには、荷物の所有者である元入居者様から、荷物の撤去、処分についての同意を得ておくか、判決を取得して強制執行に基づき撤去するという方法が考えられます。
占有者(元入居者様)による占有(残置物を搬出しないこと)が権原のない違法なものであったとしても、これをオーナー様が自力で排除することは、法の禁止するところであり、許されていません。そのため、オーナー様が部屋に立ち入り、さらに荷物を搬出、処分するような行為は、自力救済として違法な行為となってしまいます。
そして、他人の所有物を故意又は過失によって滅失させた場合、不法行為責任として、当該所有物の滅失によって生じた損害を賠償する責任を負います(民法第709条)。
本件においても、たとえオーナー様が元入居者様に対し、再三残置物の搬出を要請し、搬出がない場合は処分する旨を事前にご案内していたとしても、当該残置物を勝手に処分する行為は、元入居者様の所有権を侵害したものとして、民法上の不法行為に該当し、オーナー様は、元入居者様に対し、損害賠償責任を負う可能性が高いと考えられます。
この点、所有権は、所有権者の同意さえあれば放棄することも可能ですので、本件においてオーナー様が撤去しようと考えている物の所有権者から、撤去、処分についての同意を得ているということであれば、入居者様は、上記損害賠償請求を行えないものと考えます。元入居者様との間で、所有権を放棄したとしても撤去費用等の負担を免れるものではないことを説明のうえ、所有権放棄の合意書を作成することが確実ですが、それが難しい場合には、所有権放棄の旨を口頭で述べてもらい、それを録音する又は記録しておくなどの方法が考えられます。
それも難しい場合には、明渡しを命ずる判決を取得のうえ、強制執行により撤去するべきです。この他、「所有権を放棄したと考えられてもやむを得ない期間」保管し、そのうえで処分する方法などが挙げられることもありますが、この期間について、法令においては規定されていません。具体的には、不法行為責任が「加害者及び加害の事実を知った時」から3年間に限り請求可能であることからすれば3年間が、相手の返還請求権を、撤去及び保管の合意という寄託契約類似の契約に基づく債権的な合意によるものと考えれば、債権の消滅時効である10年間が、相手方の所有権をオーナー様が取得すると考えると、所有権の時効取得のための期間である20年間が、それぞれ保管期間の目安として挙げられていますが、いずれも裁判例などによって「正解」として示されているものではなく、適法と断言できる方法ではありません。