ニューズレター


2020.Apr vol.65

建物の傾斜と賃料減額


不動産業界:2020.4.vol.65掲載

私は、アパートの賃貸人ですが、あるきっかけでアパートの床に傾きがあることが判明しました。調査してみたところ、最大で60ミリほどの傾斜が確認されました。アパートの入居者からは傾きに関する問い合わせや苦情はきていませんが、入居者の健康被害を考慮して、傾斜を修繕したほうがよろしいでしょうか。また、修繕する場合には、修繕が完了するまでの期間、建物の賃料を減額した方がよいでしょうか。


建物の勾配が入居者の身体に被害を及ぼす可能性のある程度のものであると認められる場合には、賃貸人には、建物の傾斜を修繕する義務があるものと考えられます。また、建物が使用収益に適する状態ではない場合には、賃料を減額しなければならないこともあります。

さらに詳しく

賃貸借契約においては、賃貸人は、賃借人に対して、賃貸目的物を使用収益するのに適した状態に置く義務(民法 601 条)及び賃貸目的物を使用収益するのに適した状態に修繕する義務(民法 606 条 1 項)を負っています。

この使用収益義務ないし修繕義務の内容には、賃貸目的物の使用によって賃借人の身体機能を害さないことも当然の前提として含まれているものと考えられます。

本件で問題となっているような建物の傾斜が賃借人の身体機能を害するかどうか、すなわち賃貸人の使用収益義務ないし修繕義務違反となるかについては、国土交通省の基準が参考となります。同基準によれば、建物に1000分の6以上の傾き(1メートルあたり 6ミリの傾斜)がある場合には建物に瑕疵があると判断される可能性があります。また、日本建築学会による健康障害調査によれば、傾斜が0.6度程度でめまいや頭痛が見られ、1.3度で牽引感、ふらふら感、浮動感、2乃至3度でめまい、頭痛、吐き気、食欲不振、4乃至6度で強い牽引感、疲労感、睡眠障害、7乃至9度で牽引感、めまい、吐き気、頭痛、疲労感、睡眠障害などが見られたと報告されています。日本建築学会による調査は、あくまで参考資料の一つですから、例えば、傾斜が1.3度あり入居者に浮動感が認められるとしても、必ずしも当該浮動感が傾斜のみに起因するものとは限らず、他の因子が作用している可能性も考えられます。しかし、このような調査結果は、入居者が健康被害を訴えた際に、当該被害が建物の傾斜に起因するものであるとの補強材料になり得ますし、さらに前述した国交省の基準以上に傾きが認められる場合には、入居者の健康被害と建物の傾斜との間に因果関係が認められる可能性が高くなるものと考えられます。因果関係が認められた場合には、賃貸借物件は使用収益するのに適した状態ではないとして、賃貸人は修繕を施さなければならないものと考えられます。

本ニューズレターは、具体的な案件についての法的助言を行うものではなく、一般的な情報提供を目的とするものです。

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