ニューズレター
2015.May Vol.6
不動産業界:2015.5.vol.6掲載
先生!
最近の不動産業界ではモンスターペアレントならぬモンスター賃借人がいるんですよ。
私の会社が運営するマンションの賃借人が、他の賃借人のお子さんに罵声を浴びせたり、廊下にゴミを放置したり他の賃借人に嫌がらせをしているんです。
でも、契約書には迷惑行為を行ったら契約を解除するという条項は入れ忘れてしまっていました。
この賃借人に出て行ってもらうことはできないのでしょうか?
賃借人は他の賃借人など近隣の迷惑となる行為をしてはならない義務を賃貸人に対し負っているものと考えられます。
そのため、近隣の迷惑となる行為すなわち義務違反の程度が著しく、賃貸人と賃借人間の信頼関係が破壊されるに至っているときは、賃貸人は賃貸借契約を解除することができると考えられます。
判例上、賃貸借契約のような継続的な契約関係の場合、契約違反、すなわち債務不履行があることに加えて、当該債務不履行によって契約当事者間の信頼関係が破壊されているといえる場合に、契約の解除は認められるものとされています。
他方、契約違反の根拠となる特約が無い場合であっても、信頼関係が破壊されているときには賃貸借契約の解除ができる場合があると考えられます。
この信頼関係の破壊の有無については、「ある事実があれば信頼関係の破壊が認められる」という定式があるわけではなく、事件を扱う裁判所が、個別の事案において信頼関係喪失につながると考えられる事実を総合考慮して判断するものとなります。
賃借人の迷惑行為が問題となった場合の信頼関係破壊について言及した裁判例には、以下のようなものがあります。
例えば、東京高裁昭和61年10月28日判決は、共同住宅の賃借人が、居住部分から階下にゴミ等を捨て他の住民の洗濯物にかける、近所の子ども等に罵声を浴びせる、廊下に私物等を置いて通行を妨害するといった行為を2年間にわたり断続的に行い、階下や隣室の住民が退去してしまった事案ですが、それ自体著しく他人の迷惑となる行為であるといわざるを得ず、賃借人の義務違反の行為によって、信頼関係はすでに破壊されるに至ったというべきである旨判示しています。
他方、東京地裁平成19年1月12日判決では、賃借人が共用廊下に大量の荷物を放置し、奇声を発するなど近隣に迷惑となる行為をした事案ですが、共用廊下に大量の荷物を放置していることについては、被告の連帯保証人の協力を得て解決可能であると解され、また、奇声を発するなどの行為は、近隣居住者の賃貸借契約がそれを理由に解除された事実はないこと等から、必ずしも受忍限度を超えた状況があると認定することはできず、原告と被告との間の信頼関係が破壊された状態にあるとは認められない旨判示しています。
以上のように、裁判例からは明確な基準は導き出すことはできませんが、近隣住民が受忍できず、退去に至るほどの迷惑行為を長期に亘って行っているときは、仮に迷惑行為を行ったら契約を解除するという条項がなかったとしても、信頼関係が破壊されているものと評価され、契約を解除できる可能性があります。