ニューズレター


2020.Sep vol.70

賃借人が亡くなってしまった場合、その後の手続きはどうすればよいですか?


不動産業界:2020.9.vol.70掲載

弊社は、サブリースしている物件の賃貸人となっているのですが、今回、賃借人の婚約者と名乗る方から、賃借人が亡くなったとの連絡がありました。そして、この婚約者の方としては、自分が賃借人となりたいので、改めて賃貸借契約を締結したいとのことです。この場合は、賃借人も亡くなっていますし、新しく賃貸借契約を締結してしまってもよいのでしょうか?


まず、賃貸借契約においては、賃借人が死亡したとしても、賃貸借契約は終了しません( 民法622条は、民法597条3項「使用貸借は、借主の死亡によって終了する」を準用していないため)。そこで、賃貸借契約上の賃借人の地位は、相続によって相続人に承継されることになります(民法896条)。したがって、死亡した賃借人について、賃料の滞納等の解除事由がないのであれば、賃貸人としては、賃借人が死亡したことのみを理由として賃貸借契約を解除することもできませんし、相続人に対して明渡しを求めることもできません。

賃貸人として、まずは相続人が何人いるのか、賃貸借契約の継続を希望するのかといった点を確認することになります。

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1.賃借人の相続人について
前述のとおり、賃貸借契約上の賃借人の地位は、相続によって相続人に承継されます。ここで、相続人が複数いる場合には、遺産分割協議が成立するまで、相続人全員が賃借人の地位を共同で相続していることになります(民法898条賃借権の準共有)。また、相続人が1人だけの場合には、遺産分割協議の必要はなく、賃貸人は、その唯一の相続人との間で賃貸借契約が継続していることになります。

そこで、賃貸人は、賃借人が死亡した際には、まず相続人が存在するのか、存在するとして何人いるのかを調査し、その後、判明した相続人に対して賃貸借契約の継続を希望するのかといった点を確認することになります。なお、賃借人の相続人が誰であるかについては、戸籍謄本等を取り寄せて確認することが可能です。

2.相続人が賃貸借契約の継続を希望しない場合
相続人が賃貸借契約の継続を希望しない場合には、賃料等が発生してしまうため、賃貸人は、相続人との間で早急に賃貸借契約を合意解約する必要があります。ここで、相続人が複数存在し、遺産分割協議成立前であれば、相続人全員との間で合意解約の書面を取り交わす必要があります。

3.内縁の配偶者等に対する規定
法的に夫婦となっていない場合でも、事実上夫婦として生活している場合を内縁といいます。そして、賃貸借契約において賃借人が死亡し、相続人がいない場合には、その賃借人と同居していた内縁の配偶者等は、賃借人の権利義務を承継することができるという規定が存在します(借地借家法36条1項)。

したがって、相続人がおらず、このような同居の内縁の配偶者等がいた場合、賃貸借契約上の賃借人の地位は、内縁の配偶者等に承継されるため、賃貸人としては、改めてこの配偶者等と賃貸借契約を締結する等の手続きを行う必要はありません。

4.本件のまとめ
本件において賃貸人が行うべきことは、次のとおりになります。

・賃借人の相続人が存在するのか調査を行う。
・相続人が存在する場合には、相続人に対し、賃貸借契約の継続を希望するのか否かを確認する。
・相続人が賃貸借契約の継続を希望しないのであれば、合意解約を行う。
・相続人が存在しない場合には、賃貸している物件で同居している者がいるのか調査を行う。
・同居をしている者が内縁の配偶者等であるかを確認する。

本件の質問においては、賃貸人に対し、賃借人が亡くなったとの連絡を行った者は、自らを賃借人の婚約者であると述べています。そこで、賃借人に相続人がいないのであれば、この「婚約者」と名乗る方に賃借人の権利義務が承継されることになる可能性が高いといえます。ここで当該権利義務を承継させる規定の適用を受けるためには、相続人がいないこと、賃貸の目的物となっている建物が居住用物件であること、内縁関係にあるとしても当該建物において同居していた者であることが必要となっているので、この点は注意しましょう。

本ニューズレターは、具体的な案件についての法的助言を行うものではなく、一般的な情報提供を目的とするものです。

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