"> ">
ニューズレター
2020.Nov vol.72
不動産業界:2020.11.vol.72掲載
私は、所有しているマンションの一室を、他の人に貸しています。先月、賃貸借契約の更新時期を迎えたのですが、うっかり更新し忘れていました。今後も、同じ人にこの部屋を貸してあげようと考えていますので、更新料は頂きたいと考えています。私は、借主に更新料を請求できますか。
今回、賃貸借契約は、合意更新されておらず、法定更新となっています。
法定更新となった場合に、貸主が借主に対して更新料を請求できるかについてですが、賃貸借契約書に、合意更新の場合に更新料を支払う旨の条項しかなければ、更新料を請求できないと考えられます。
そのため、借主が、合意更新の時だけでなく、法定更新の時も、一定の合理的な額の更新料を支払わなければならないことを理解できるよう、分かりやすい更新条項を賃貸借契約に設けておくことが、紛争に備えるという観点からは、重要であると考えられます。
1 法定更新について
賃貸借契約には、賃貸借の期間の定めがあるものとないものとがあります。居住用建物の賃貸借契約では、賃貸期間を2年間とする定めが置かれることが多いです。
賃貸期間が経過する際、貸主と借主が賃貸借契約を更新させることに合意した場合には合意更新が成立し、こういった合意をせず更新拒絶を適切に行わなかった場合には法定更新が成立します。
2 更新条項について
賃貸借契約には、更新時に賃借人が賃貸人に対して更新料を払う旨が規定されていることが多いですが、そもそも更新料条項を設けること自体が消費者契約法10条に違反するのではないかという点が争われたことがあります。
裁判所は、賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらないと解するのが相当であると述べた上で、賃貸借契約書に一義的かつ明確に記載された、更新料2ヶ月分で契約期間を2年間更新するという和解条項は、「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」にも、公序良俗に違反するものにも当たらない旨の判断を示しました(最二小判平成23年7月15日)。
3 法定更新の場合の更新料について
いかなる更新条項が法定更新に適用されるのかという点につき、裁判所は統一的な見解を示していません。
しかしながら、①「一、更新する場合は、乙は甲に対し更新料として金 標記金額 を支払うものとする。一、更新時に乙は更新手続料として甲に10,000円を支払うものとする。」という、文言上、合意更新と法定更新を区別していない条項について、更新料に係る部分と更新手数料に係る部分の「更新」は同一のものを指すと解される点及び法定更新の場合には更新手続に費用がかかるとは通常考えられない点を考慮し、本件更新約定のうち更新手数料に関するものは、合意更新を前提とした約定であると判断した裁判例(京都地判平成16年5月18日)や②「乙が更新を希望する場合で甲乙双方から特に申し出がない場合は自動で更新されるものとします。その際、乙は頭書(6)記載の更新料を甲に支払うものとします。」という規定について、本件契約書の冒頭一覧表(6)の記載には何ら限定が付されていないことを考慮し、「自動更新」の場合に限られず、法定更新の場合にも適用される旨の判断を示す裁判例(東京地判平成22年8月26日)を踏まえますと、裁判所は、法定更新に更新条項を適用することを一切否定しているわけではなく、賃貸借契約書上の文言や賃貸借契約をめぐる様々な事情を踏まえて、法定更新の場合にも更新料を支払う旨の当事者の意思を読み取れるかどうかにより、更新条項の適用の可否を判断していると考えられます。
請求権の発生をより明確にするためには、更新料の条項に法定更新の場合を含むことを明らかにしておくことが望ましいでしょう。