ニューズレター


2021.Jun vol.79

賃貸目的物により車が傷ついた際の請求先


不動産業界:2021.6.vol.79掲載

私は、賃貸物件を賃借しており、車庫も借りていたのですが、その車庫のシャッターが突風で壊れてしまい、駐車していた私の車に大きな傷がついてしまいました。 私は、この車の修理代について、誰に対し、どのような根拠に基づいて、どのような請求をすればよいのでしょうか。


一つの方法として、賃貸人に対し、債務不履行に基づく損害賠償請求をするという方法が考えられます(民法415条1項)。

また、もう一つの方法としては、賃貸人に対し、土地工作物責任に基づく損害賠償請求をするという方法が考えられます(民法717条1項)。

なお、いわゆるサブリース契約の場合は、直接の賃貸人ではない物件の所有者に対し、修理代を請求するために、土地工作物責任に基づく損害賠償請求をするという方法が考えられます(民法717条1項ただし書)。

さらに詳しく

まず、賃貸人と賃借人の間には、賃貸借契約という契約関係がありますので、同契約に根拠を求めることが考えられます。

賃貸人は、この賃貸借契約に基づき、賃借人に対し、賃借物を使用収益可能な状態で提供する義務を負います(民法601条)。

そこで、本件において、賃借人が、単に賃貸人に対して車の修理代を請求するのであれば、賃貸人が、上記使用収益義務に違反していたとして、債務不履行に基づく損害賠償請求をすればよいと考えられます(民法415条1項)。

次に、土地の所有者や占有者の責任を定めた工作物責任に基づく請求も考えられます。土地工作物責任に基づく請求が認められるためには、土地の工作物を占有している者(又は所有者)に対し、土地の工作物に当該工作物が「通常備えているべき安全性」が欠けていたという主張及び立証をする必要があります。

この点、ご相談の事例では、どのような突風によってシャッターが壊れたのかによって結論が変わり得ますが、通常想定される程度の突風で壊れたという状況であれば、本件におけるシャッターが、通常のシャッターが備えているべき安全性を欠いていたと判断される可能性が高いです。

また、土地の工作物とは、判例上、「土地に接着して人工的作業を加えることによって成立した物」を意味しますが(大判昭和3年6月7日)、民法717条は「危険を生じさせた者は、当該危険が現実化したときに、その責任を負うべきである」という考え方に従って広く解すべきとされているので、シャッターが「土地の工作物」に該当すると判断される可能性は十分あります。

では、最後に、賃借人の賃借していた物件が、サブリース契約によって所有者であるオーナーから賃貸人に一括で貸し出されており、その関係に基づいて賃貸人が賃借人に対し物件を貸していたというケースを想定してみましょう。

このようなケースで、賃借人が賃貸人に車の修理代を請求したところ、賃貸人が、「自分はシャッターが通常備えるべき安全性を欠かないように必要な点検を欠かしたことがないし、修理代を払う必要はない。」と主張してきた場合、賃借人が賃貸人ではなくオーナーに車の修理代を請求することができるでしょうか。

この点、賃借人とオーナーの間には、直接の契約関係があるわけではないため、債務不履行に基づく損害賠償請求をすることはできません。

一方、土地の工作物責任に基づく損害賠償請求権(民法717条)というのは、不法行為(交通事故等のように、契約関係がない当事者間の関係を規律する法の一種です。)の特則です。

そこで、賃借人は、土地の工作物責任に基づく損害賠償であれば、オーナーに対しても、請求をすることができる可能性があります。

賃借人としては、占有者である賃貸人と所有者であるオーナーのいずれに対してもとりあえず請求を行い、それぞれの反論を聞いてどちらが責任を負うのかを判断すればよいと考えられます。

本ニューズレターは、具体的な案件についての法的助言を行うものではなく、一般的な情報提供を目的とするものです。

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