ニューズレター


2021.Jul vol.80

入居者が死亡していた場合の原状回復や告知義務はどうすればよいですか?


不動産業界:2021.7.vol.80掲載

弊社は、物件の賃貸人なのですが、今回、賃借人が入居者として申告していた方が物件で亡くなっていました。

弊社としては、賃借人に対し、死亡によって生じた汚損等の原状回復費用について請求をする予定です。また、死亡していたことにつき告知義務が発生するため、この点についても、賃借人に対し、何か賠償請求を行うことは可能なのでしょうか?


まず、賃貸借契約において、賃借人には賃借物件を原状に回復して賃貸人に返還する義務がありますので(民法621条)、入居者の自殺等により通常損耗を超える範囲の原状回復費用については請求を行うことができます。

また、入居者の死亡について、賃借人の義務違反といえるのであれば、告知義務から生じ得る損害も当該義務違反と相当因果関係を有するものとして、その賠償請求が認められる可能性はあります。

さらに詳しく

1.賃借人の原状回復義務について

前述のとおり、賃貸借契約が終了した場合、賃借人は賃借物件を原状に回復して賃貸人に返還する義務があります(民法621条)。もっとも、建物の賃貸借契約において、目的物は居住と共に経年劣化することが想定されており、経年劣化分は賃料等で補充されていると考えられることから、賃借人の原状回復費用の範囲は、原則として通常の損耗を超える範囲のみになると考えられています(最高裁平成17年12月16日判決、民法621条)。
そこで、賃貸物件に対し、入居者の自殺等により通常損耗を超える汚損等が発生しているのであれば、賃貸人は、賃借人に対し、当該原状回復費用についても請求することが可能であると考えられます。

2.死亡したことに対する義務違反について

賃貸借契約において、賃借人には、自殺をしないで賃借物件を使用収益する義務が裁判例によって認められています(東京地裁平成22年9月2日判決等)。そこで、入居者の死因について、自殺であった場合には、賃借人の義務違反が認められ、賃貸人は、賃借人に対し、当該義務違反となる債務不履行に基づく損害賠償請求を行うことができる可能性があります。
他方、病死(自然死)の場合には、賃借物件が賃借人の生活の本拠である以上、老衰や病気等による自然死は当然に予想することができるため、特段の事由がない限り、債務不履行に基づく損害賠償責任を問うことはできないと考えられています(東京地裁平成19年3月9日判決参照)。

3.死亡したことに対する告知義務について

賃貸物件につき、過去に人の死があったということは心理的瑕疵に該当し、賃貸人側(仲介業者)は、告知義務を負う場合があります。この点、告知義務の期間については、法律上明確な基準が存在しないため、死亡の種類、物件の利用目的、賃貸借契約の種類、事件の重大性、希釈事情などを考慮し、個々の事案ごとに判断されます。
例えば、過去に他殺、自殺、事故死が生じた場合には、原則として告知義務が生じます。そして、死因が明らかでないものであっても、借主の判断に重要な影響を及ぼす可能性があると考えられるため、原則としてこれを告げるべきであるとされます。
他方、自然死については、裁判例において心理的瑕疵への該当を否定したものがあるため、長期間の放置によって特殊清掃等が行われた場合を除き、告知義務は生じません。
なお、国土交通省が開示した「宅地建物取引業者による人の死に関する心理的瑕疵の取扱いに関するガイドライン(案)」によれば、自然死を除く死亡の告知義務については、事件の発生から概ね3年間と整理されています。
そして、これら告知義務があるために、賃貸物件を貸しにくくなるのであれば、物件の評価額が減少したものとして、賃料の減額相当額が損害として認められる場合があります(東京地裁平成22年9月2日判決等)。

4.本件のまとめ

以下、本件のような入居者が死亡した場合において、賃貸人が確認しておくべきこと、検討すべきことをまとめます。

・入居者の死亡原因について、自殺であるのか、病死(自然死)であるのか確認を行う。
・入居者の自殺等によって、物件に通常損耗を超える汚損等が発生しているのであれば、これらの原状回復費用についても請求できる場合がある。
・自殺等の告知義務があるために、物件が貸しにくくなり、賃料を減額せざるを得なくなったのであれば、減額分の損害賠償請求が認められる場合がある。

今回の質問は、入居者が死亡した場合の、賃貸人から賃借人に対して行い得る請求等についての解説でした。これに対して、自殺した者が賃借人であった場合、賃貸人は、「相続人」や「連帯保証人」に対し、前述のような請求を行うことになります。賃貸人や管理会社としては、誰に請求することが可能であるかを確認して対応するようにしましょう。

本ニューズレターは、具体的な案件についての法的助言を行うものではなく、一般的な情報提供を目的とするものです。

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