ニューズレター
2021.Sep vol.82
不動産業界:2021.9.vol.82掲載
当社が賃貸している物件において、クーラーからの水漏れが発生してしまい、入居者から、様々な家電が壊れたため、損害の賠償として購入時の価格を支払うように求められています。
当社は、入居者の主張するように、すべての損害を賠償しなければならないのでしょうか。
なお、調査の結果、クーラーから水漏れが生じたこと自体は、当社の管理不足で発生していることが明らかとなりました。
結論として、入居者の主張するような新品価格相当額の賠償に応じる必要はないと考えられます。
債務不履行により、物が壊れた場合の損害賠償において、債務者が賠償しなければならない損害の範囲とは、一般に、壊れた物の時価と当該物を修理するのに必要な修理費とを比較し、低い方の金額を賠償すればよいと考えられています。
壊れた物の新品価格の賠償を認めた場合、債権者は、水漏れが生じたことにより、水漏れが生じる前よりも経済的に得をすることになりますが、債務者の債務不履行により水漏れが生じたからと言って、債務者の犠牲のもと、債権者に得をさせることを法的には正当化はできません。
理論的に、上述の結論がどのように導かれるのか、判例の考え方も踏まえて紹介しましょう。
判例上、債務不履行に基づく損害賠償の際、債務者が、債権者に対し、賠償しなければならない損害の範囲とは、「債務不履行がなければ債権者が置かれていたであろう財産状態と、債務不履行があったことにより債権者が置かれている財産状態との差を金額であらわしたもの」であると考えられています。
したがって、本件において、貴社が賠償しなければならない損害の範囲とは、次の2通りが考えられます。
この場合、「債務不履行がなければ債権者が置かれていたであろう財産状態と、債務不履行があったことにより債権者が置かれている財産状態との差」とは、修理が必要でない物を有している状態と修理が必要な状態の物を有している状態との差であり、これを「金額であらわしたもの」とは、端的に当該物の修理費となります。
この場合、「債務不履行がなければ債権者が置かれていたであろう財産状態と、債務不履行があったことにより債権者が置かれている財産状態との差」とはエアコンの漏水により水に濡れた物を有している状態と水に濡れることがなかった物を有している状態との差であり、水に濡れた物が壊れ、その価格が0円となったと仮定すると、これを「金額であらわしたもの」とは、水に濡れた時点における当該物の時価となります。
次に、これら2つ(修理費と時価)の関係性について、修理と時価相当額の支払いのいずれかがなされれば、債務不履行により債権者に生じた損害は補填されることになりますので、いずれか一方が支払われればよいものと考えられます。
また、どちらが優先されるべきか、という点について、安価なほうが賠償されれば十分だと考えられます。
一方が他方と比較して安価であった場合、当該安価なほうの賠償がされれば、理論的には債権者の損害の賠償としては十分であるところ、高価なほうの賠償をさせることは、債権者に不必要な負担を生じさせることとなるからです。
したがって、債権者が、壊れた物に思い入れがあるとして、時価を超える修理費用を請求することはできません。
なお、家電類に関する時価がいくらであるかを判断するに際し、一つの基準となる考え方として、国税庁の発表している「主な減価償却資産の耐用年数表」というものがあります。
減価償却は、税金を算定する際の指標であるため、時価と必ずしも一致するわけではありませんが、一応の参考とすることはできます。