ニューズレター
2021.Nov vol.84
不動産業界:2021.11.vol.84掲載
当社が賃貸している物件において、部屋から溢れるほどごみをため込んでいる部屋(以下「本件物件」といいます。)があり、近隣の住民からクレームが寄せられている状況です。
当社としては、ごみを片付けること、退去することを求める手紙は送っているのですが、本件物件の賃借人からは、どちらも応じていただけていない状況です。
このような場合、法的に、本件物件の賃借人を強制的に退去させることはできないのでしょうか。
裁判例においては、信頼関係を基礎とする継続的な賃貸借契約の性質上、貸室内におけるゴミ放置状態が多少不潔であるからといって、そのことが直ちに賃貸借契約の解除事由を構成するということはできないという考え方を基本としており、賃貸人が賃貸借契約を解除することを容易には認めていません。
賃貸人による解除が有効であると認められる事案としては、ごみの量が社会常識から大きく外れる程度に大量である場合で、ごみを片付けるように賃貸人が再三の注意をしたにもかかわらず長期にわたってごみが放置されている場合等です。
賃貸借契約において、賃貸人が、賃借人の債務不履行を理由として賃貸借契約を解除する際(民法541条)、当該解除が有効となるためには、賃借人の債務不履行が、賃貸借契約における賃貸人と賃借人間の信頼関係を破壊するに至っていると認められる必要があります。
したがって、いわゆるごみ屋敷に関し、賃貸借契約において、賃借人が「多量のごみを放置しないこと」という義務を負っていたとしても、それだけですぐに賃貸人による賃貸借契約の解除が認められるわけではないのです。
次に、いわゆるごみ屋敷事案において、賃貸人による賃貸借契約の解除を認めた裁判例を2つ紹介しましょう。
一つめの裁判例は、⑴2年以上にわたって社会常識をはるかに超える量のごみを放置していた、⑵貸主が消防署から貸室内のごみが原因で火災が発生する危険性があると注意を受けた、⑶貸主及び多数の近隣住民が実際に迷惑を受けているとして注意をし続けていたが状況が変わらなかった、といった事情に鑑み、賃貸人による賃貸借契約の解除の有効性を認めた事案です(東京地判平10・6・26)。
二つめの裁判例は、賃借人が大量のごみで賃貸物件の土地を埋め尽くし、近隣住民50人以上からの苦情が発生した結果、当該近隣住民から東京簡易裁判所に対する悪臭防止等調停事件の申立てを受けたにもかかわらず、10年以上の期間賃借人がごみを処理しなかったこと等を考慮し、賃貸借契約の解除を認めた事案です(東京地判平21・7・21)。
裁判例の立場としては、賃貸人からの賃貸借契約の解除を有効と認めたものであっても、単にごみが大量に放置されている事実のみを理由とするのではなく、ごみが大量に放置されている状況がどの程度の期間放置されていたのか、賃借人に対し、賃貸人や迷惑を受けている近隣住民から訴訟提起前にどのような注意がなされておりその結果賃借人がどのような対応をしたのか(していないのか)、といった事情を証拠から認定し、解除の有効性を認める際の考慮要素としています。
したがって、実際に、いわゆるごみ屋敷と化した賃貸物件について、賃貸人が、賃借人に対し、賃貸借契約の解除及び賃貸物件の明渡しを求める際には、単にごみが放置されている状況を証拠化するだけでは不十分であり、訴訟を提起する前に、賃借人に対し、ごみを片付けるように書面で求め、それにもかかわらず賃借人が誠実に対応しないという事情等を、証拠をもって主張するための準備をすることが重要です。