ニューズレター
2015.Jul Vol.8
不動産業界:2015.7.vol.8掲載
先生、うちの管理する賃貸物件の賃借人がゴミを溜めこんで部屋をゴミ屋敷にしてしまいました。
ゴミが溜まっているせいで、部屋の外まで臭ってきます。
臭いしゴキブリも増えてしまって周りの賃借人も何人か退去してしまいました。
周りの人の迷惑になるからゴミを片付けてくださいと言っているのですが賃借人は全然ゴミを片付けなくて困っています。
でも、契約書にはゴミを溜めてはならない旨定めた条項はないんです。
この賃借人に出て行ってもらえますか?
賃借人には、単に「毎月、家賃を払う」という当たり前の義務の他にも、「賃貸物件を適切に使用しなければならない」という義務があります。
部屋をゴミ屋敷にして異臭を出し、周りの入居者に迷惑をかけるという行為は賃貸物件を適切に使用しているとは言えず、仮に契約書にゴミを溜めないことという条項がなかったとしても解除の理由になりえます。
判例上、賃貸借契約のような継続的な契約関係の場合、契約違反、すなわち債務不履行があることに加えて、当該債務不履行によって契約当事者間の信頼関係が破壊されているといえる場合に、契約の解除は認められるものとされています。
他方、契約違反の根拠となる特約が無い場合であっても、信頼関係が破壊されているときには賃貸借契約の解除ができる場合があると考えられます。
この信頼関係の破壊の有無については、「ある事実があれば信頼関係の破壊が認められる」という定式があるわけではなく、事件を扱う裁判所が、個別の事案において信頼関係喪失につながると考えられる事実を総合考慮して判断するものとなります。
ゴミ問題についての裁判例として、借地である土地上を大量の生ゴミで埋め尽くし、いわゆるゴミ屋敷にする行為は、賃貸借契約関係における信頼関係を破壊するのに十分なものであったということができるとの判断を下したものがあります。
すなわち、東京地裁平成21年7月21日判決では、大量のゴミで土地を埋め尽くし、近隣住民50人以上からの苦情を受け、東京簡易裁判所に対する悪臭防止等調停事件の申立てを受けたにもかかわらず10年以上の期間ゴミを処理しなかったことを考慮し賃貸借契約の解除を認めています。
もっとも、契約を解除できるかはゴミの量や種類、ゴミをためた期間、場所、臭いの程度などの周りへの影響、周囲の住民の苦情及び苦情に対する賃借人の対応状況等を総合的に判断されると考えられます。
上記の裁判例からすると、ゴミ屋敷にすることは解除事由になり得るといえます。
もっとも、ゴミ屋敷にしたからといってすぐに契約を解除できるとは限らず、ある程度の期間継続して一定程度の量のゴミを溜め、苦情を言っても改善の様子が見られない等の状況があり信頼関係が破壊されていると認められなければ解除することはできないと考えられます。