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ニューズレター
2022.Jul vol.92
不動産業界:2022.7.vol.92掲載
当社が管理する物件に、1年ほど前からゴミ捨てマナーを守らない賃借人(以下、「賃借人A」といいます。)がいます。賃借人Aは、収集日を守らず、ゴミを分別しないばかりか、1枚の大きなゴミ袋に2週間分のゴミをまとめてゴミ捨て場に捨てています。
賃貸人と当社は、賃借人Aによるマナー違反のゴミ捨て行為(以下、「本件マナー違反行為」といいます。)を確認するたびに、注意文の投函や電話での注意を行っていますが、全く改善されません。
このままでは、他の居住者のゴミが回収されないなどの事態が生じそうなので、賃借人Aを追い出せないでしょうか?
本件マナー違反行為を理由として、賃借人Aを退去させることはできないと考えられます。
そのため、賃借人Aの任意退去に向けて、本件マナー違反行為を確認した際には速やかに注意文の投函、電話による注意を引き続き行うことを推奨します。
賃借人を退去させる方法として、(ア)賃借人との間の賃貸借契約を解除すること、(イ)賃貸人から留保された中途解約権に基づき解約申入れをすること又は賃貸借契約の終了時期までに更新拒絶をすること、が挙げられます。
今回のケースでは、いずれかの方法で賃借人Aを退去させられるのでしょうか?
賃貸借契約を解除するには、賃貸人又は賃借人が賃貸借契約上の義務に違反したという解除事由が必要になります。
では、ゴミ捨てのマナー違反は、解除事由に当たるのでしょうか?
過去の裁判例をみると、「建物の入居者がゴミ捨てのルールを守らなかったため、賃貸人が注意をしたにもかかわらず、その後も約2年間、ゴミ捨てのルールを守らなかったことについて、これのみをもって、賃貸借契約の解除原因になるとは認められない」(東京地判平成19年5月16日)と、ゴミ捨てのマナー違反が賃貸借契約の解除事由に当たらないと判断しています。
この判断は、ゴミ捨てのマナー違反が賃貸借契約の賃借人の義務に含まれているとはいい難いことを理由にしていると思料されます。
そのため、賃借人Aの本件マナー違反行為は、賃貸借契約上の解除事由に当たらず、賃貸借契約を解除することはできないと考えられます。
建物賃貸借において、賃貸人から賃借人に対し、留保された中途解約権に基づく解約申入れ又は契約終了時に更新拒絶を行う際には、「正当の事由」(借地借家法28 条)が必要になります。
では、どのような場合に賃貸人の「正当の事由」が認められるのでしょうか。
「正当の事由」の有無は、①賃貸人側の事情(賃貸人が建物使用を必要とする事情等)と②賃借人側の事情(賃借人(転借人を含む)が建物使用を必要とする事情)、その他諸般の事情を踏まえた比較衡量の上で判断される、というのが基本的な考え方です。
もっとも、賃借人に契約違反の事実がある場合に「正当の事由」が認められると判断されることもありますが、 過去の裁判例(東京地判昭和54年8月30日)では、(ⅰ) 賃借人の違反行為が賃貸借契約の解除事由として定められていること、(ⅱ) 当該違反行為が他の居住者や賃貸人に対して被害(損害)を発生させていること、(ⅲ) 賃貸人の複数回の注意にもかかわらず賃借人の違反行為が改善されないこと、を重視しており、契約の終了が認められるハードルは非常に高いでしょう。
今回のケースでは、「他の居住者のゴミが回収されないなどの事態が生じそう」な段階であり、まだ現実に他の居住者等に被害(損害)が生じていないと考えられます。
そのため、「正当の事由」があると認められない可能性が高く、解約申入れ又は更新拒絶は認められないと考えられます。
今後の対応としては、賃借人が任意退去するように、本件マナー違反行為を確認次第、速やかに注意文の投函や電話による注意を引き続き行い、本件マナー違反行為の具体的な記録を取ることを推奨します。