ニューズレター
2015.Aug Vol.9
不動産業界:2015.8.vol.9掲載
先生こんにちは。
うちのアパートの賃借人の子がいるんだけど、大学入学の頃から入居していて、もう7、8年くらいのつきあいなんだよね。あのころは勉強頑張ってえらいなあなんて思っていたんだけど、いつの間にか留年して遊びまわって、見た目もどんどん派手になってぐれちゃった挙句、こないだ警察から連絡があってねえ。
なんか、駅前で乱闘騒ぎを起こしたらしいんだけど、詳しい話を聞いていたら、その子がなんとか組の組員になったなんて話がでてきてねえ。
暴力団になった以上出て行ってもらいたいんだけど、私がやるのも仕返しとか怖いから先生に頼みたいんだ。
そもそも、暴力団に入ったら、すぐに出て行ってもらえるんだよね?
暴力団に入っただけでは、必ずしも退去させることができるとは限りません。
賃貸借契約上、暴力団関係者であることが判明した場合には契約を解除できるという規定がある場合には、契約を解除できる可能性があります。
しかしながら、そのような条項がない場合には、契約を解除しうる他の事情がないか検討しなければなりません。
暴力団等のいわゆる反社会的勢力に関しては、各都道府県において暴力団排除条例が施行されるなど、社会情勢として、社会から排除しようという傾向にあります。
しかしながら、当該条例はあくまでも行政上の規制であることから、賃貸借契約等の私人間の契約については、原則として当該条例とは別に考えなければなりません。
この点、賃貸借契約等の継続的契約においては、「解除事由」と「信頼関係の破綻」が求められます。
しかしながら、賃借人が暴力団というだけでは、民法等において賃貸借契約上定められた義務に違反するわけではないので、「解除事由」とはならない可能性が高いものと考えられます。
そのため、「解除事由」とするためにも、暴力団関係者であることが判明した場合には契約を解除できる条項(いわゆる反社会的勢力の排除条項)を規定する必要があります。ここに、例えば東京都暴力団排除条例18条2項1号においては、同規定を設けることが事業者の努力義務とされていますが、当該条例は概ね平成22年以降制定されていることから、本件のように7、8年前の契約には反社会的勢力の排除条項が規定されていない例も多く見られます。条項がない場合には、例えば賃料を支払っていないことや、組事務所として使っているなどして目的外使用をしているといった事情が必要となります。
以上から、反社会的勢力の排除条項があれば、「解除事由」があることになりますが、前述のように、賃貸借契約の解除のためには「信頼関係の破綻」が求められることから、暴力団関係者であることのみをもって直ちに解除はできないのではないかという問題も生じます。
この点について、本年(平成27年)3月27日最高裁判決は、暴力団関係者であることのみをもって、反社会的勢力の排除条項により賃貸借契約を解除することを認めていることから、暴力団関係者であることのみをもって、信頼関係は破綻していると認めているものと考えられます。
なお、当該判例は、反社会的勢力の排除条項について、暴力団関係者側から憲法違反(憲法14条1項及び22条1項違反)を主張していましたが、排斥されています。
以上のように、暴力団を排除するためには、反社会的勢力の排除条項が必要です。
条例制定前に締結された契約書には条項が入っていない可能性もありますので、今一度ご確認の上、改めて規定するよう心掛けてください。