ニューズレター
2017.Oct Vol.35
不動産業界:2017.10.vol.35掲載
専用庭付きの部屋を賃貸していて、先日、賃借人が退去したのですが、庭の様子を見てみると、庭の雑草が伸び放題でひどい有様で、庭に植えていた松も枯れてしまいました。せっかくきれいに整備した庭を賃貸していたのに…。これって損害賠償請求できませんか?
専用庭が賃貸借契約の目的物となっている場合、賃借人は専用庭や庭にある植栽について善管注意義務を負います。これにより、賃借人に雑草の除草義務や、植栽について一定の管理をする義務が認められる可能性があります。賃借人がかかる義務に違反したと認められれば、賃貸人が賃借人に対し損害賠償請求することが可能です。
専用庭については、賃貸借契約書に記載されてないのですが、それでも、庭が賃貸借契約の目的物となっていると言えますか?
具体的な庭の状況にもよりますが、建物と一体となって賃貸されていたことが明らかであるような場合には、専用庭についても建物と共に賃貸借契約の目的物になっていると考えられます。
居室や建物の賃貸借契約においては、一般的には当事者間で賃貸借契約書が交わされます。このとき、契約書の「賃貸の目的物」として、建物自体は明記されていることが多いですが、専用庭については記載されていないことがあります。この場合でも、専用庭は賃貸借契約の対象になるのでしょうか。
この点、契約内容は契約書の記載のみによって決まる訳ではなく、契約書に記載されていないことや契約書の文言の解釈については、当事者間の合理的な意思を解釈して決定されます。
そして、専用庭に関しては、状況にもよりますが、例えば、庭付き一戸建ての建物で、当該建物と庭が共に周囲を塀で囲まれて同一の空間にある場合など、建物と庭が一体となっているような場合には、賃貸人は「庭も使っていいですよ」と認識して貸したと考えられますし、賃借人も「庭も使っていいのだろう」と認識して借りたと考えられます。したがって、このような場合 は専用庭も賃貸借契約の目的物となっていると判断することが可能と考えられます。
賃貸借契約において、賃借人は、賃貸人に対し、賃貸借の目的物を「善良な管理者の注意をもって管理する義務」を負います。これを「善管注意義務」といいます。賃借人が善管注意義務を怠ったために、賃貸借の目的物に損耗が生じた場合には、賃借人は賃貸人に対し、損害賠償義務を負います。例えば、建物の賃貸借契約においては、賃借人の換気が不十分で室内でカビが発生しているにも関わらず、賃借人がこれを放置した場合などには、賃借人の義務違反となる可能性があります。専用庭も含めて賃貸借契約の目的物となっている場合には、賃借人は当該専用庭についても善管注意義務を負うことになります。
では、専用庭の雑草の除草について、賃借人は義務を負うのでしょうか。
この点について、東京簡易裁判所平成21年5月8日判決(以下「本件判決」といいます。)においては、賃借人の「善管注意義務」の一環として除草義務が生じる旨判断しています。
また、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」においても、「草取りが適切に行われていない場合は、賃借人の善管注意義務違反に該当すると判断される場合が多いと考えられる。」とされており、専用庭の雑草の除草については、賃借人の義務と判断される可能性が高いと考えられます。
次に、専用庭にある植栽については、賃借人が義務を負うのでしょうか。(なお、ここで植栽とは、専用庭に植えられた樹木や草花等をいい、人為的に植えられ、従前賃貸人にて手入れ等されている点で雑草と区別されるものと考えます。)
この点、本件判決は、賃借人は庭の植栽についても善管注意義務を負うため、庭にある松が枯れそうな状態であるならばこれを賃貸人に知らせる義務があると判断しています。しかし、一方で、植栽の剪定には一定の知識経験が必要とされることから、賃借人に植栽を剪定する義務まではないと判断しています。
以上を考慮すると、本件についても、賃借人について、雑草の除草義務や、枯れゆく松の状況を賃貸人に知らせる義務が認められ、賃貸人はこれらの義務を怠った賃借人に対して、損害賠償請求ができると考えられます。
専用庭に限らず、賃借人は、借りた物について善管注意義務を負いますので、通常と異なる使用方法をしたり、借りた物が損耗していくのを放置したりすれば、義務違反となる可能性があることに注意すべきでしょう。