ニューズレター


2019.May vol.54

修繕を拒む賃借人


不動産業界:2019.5.vol.54掲載

私は、貸しアパートを経営している大家なのですが、今般、1階に住むAさんから、「浴室の天井に漏水が生じているので対応してほしい。」との申し出を受けました。そこで、Aさんの部屋を調査したところ、浴室の天井に亀裂が入っているうえ、当該亀裂が階上の部屋まで及んでいる可能性が高いことから、階上の部屋への立入調査が必要であると判明しました。ところが、階上の部屋の住人Bさんは、「大家が部屋に立ち入るのはプライバシー侵害だ、勝手に部屋に入ったら警察を呼ぶぞ。」などと言い、何ヶ月も立入調査に応じてくれません。他方で、Aさんからは、漏水への対応が遅いとクレームが入っています。

立入調査に協力してくれないBさんに対して、何か法的な対応を取れないものでしょうか。


賃借人は、賃貸人による賃貸目的物の保存(修繕)行為を受忍する義務を負っており、賃借人が正当な理由なく保存(修繕)行為に協力しないことは、賃借人の債務不履行になると考えられます。今回、Bさんは何ヶ月にもわたって立入調査を拒んでおり、Bさんの債務不履行が継続していることから、質問者とBさんの信頼関係は破壊されており、質問者は賃貸借契約を解除して部屋の明渡しを求めうる可能性が高いと考えられます。

さらに詳しく

集合住宅で漏水等修繕を要するトラブルが生じた場合、当該トラブルの原因が複数の部屋にわたる場合も少なくなく、修繕にあたっては、他の入居者の協力が不可欠です。他方で、プライバシー意識の高まりから、上記ご相談のように修繕のための入室を拒む賃借人も少なからずいるため、修繕を進められない場合があります。

このように、賃借人が修繕への協力を拒む場合について、民法上は、賃貸人が賃借物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人はこれを拒むことができないと規定されています(民法606条2項)。この点、保存に必要な行為(保存行為)とは、物の現状を維持する行為であり、修繕を行うことや、その前提となる立入調査を行うことも、保存行為に含まれるものと考えられます。したがって、ご相談のBさんのように、立入調査に協力しないことは、賃借人として賃貸人の保存(修繕)行為を受忍する義務に違反しており、賃借人は債務不履行責任を負うことになります。

もっとも、賃借人が上記受忍義務に違反しているとしても、当該受忍義務違反を理由に賃貸借契約を解除できるか否かは別の問題となります。この点、裁判例上は、賃貸借契約の解除が許容されるような義務違反とは、賃貸人と賃借人との間の継続的な信頼関係を破壊するような重大な違反に限られるとする判例法理が確立されています。

ご相談の場合、漏水の原因が亀裂であることが判明しているところ、当該亀裂を放置することによって建物が通常有すべき安全性が損なわれる可能性もあることから、当該亀裂の修繕の必要性は大きいと考えられます。他方、Bさんは何ヶ月にもわたって部屋への立入調査を拒んでおり、上記賃借人の受忍義務に継続的に違反していることは明らかですので、解除が認められる可能性は高いと考えられます。

本ニューズレターは、具体的な案件についての法的助言を行うものではなく、一般的な情報提供を目的とするものです。

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